腹減ったおじさん
投稿者:rark (32)
「腹減ったおじさん」
僕の11歳の誕生日。夜に親父が居酒屋に連れてってくれたんです。僕か焼き鳥を頬張りながら、店のテレビでやっていた野球中継を見ていると、
「腹減ったぁ〜!」
と言う声と共に店のドアが開く。振り帰ると、作業服を着た少し痩せ気味のおじさんが入ってきました。
(酔っ払いかな?)
と思ったのですが、そこからというもの、そのおじさんがずっと
「腹が減ったぁ…腹が減ったぁ」
と言いながら、料理を口へと放り込む。
「あぁ。腹減ったぁ…。この肉じゃない。これでもない。腹減ったぁ…。腹が減った…!」
僕らが店を出る時まで、ずっとそう呟いていたと思います。店を出ると、親父の仕事の知り合いとばったり遭遇して、親父はその人と話し込む。すると……
ガラガラガラ……
店のドアが開く音が聞こえる。
「…腹減った。」
背後からそんな声がして、ギョッとして後ろを振り返る。そこにはさっきまで「腹減った。」を連呼していたおじさんが立っていた。
フラフラとした足取りだが、その視線は明らかに僕の方を向いていた。
「腹が減ったぁ……」
次の瞬間。そいつは僕の肩をガっと掴む。この体型とは思えないほどの力だった。動揺する僕にそいつは顔をずいっと近づける。
「○○の肉ゥ……!!」
目の前にある顔がニタァっと気味の悪い笑みを浮かべる。出そうとしていた声が、喉の奥で突っかえるのを感じる。○○というのは、僕の名前だ。なぜコイツが知っている?
思考を巡らそうとしても、恐怖がそれを邪魔している。親父は酔っているのか、知り合いと話すばかり。もうダメかと思ったその時、
「おい!」
という声がして、僕はハッとする。
振り返るとそこには、ガラの悪いDQNな4人組が立っていた。
「店の入口で何やってんだよおっさん。入れねーだろ。」
おじさんの手が僕の肩から離れる。4人組の1番後ろにいたお兄さんに、
「ほら。早く親のとこ帰れ。」
と言われ、背中を軽く押され、僕は親父の元へと帰る。そして振り返ると、DQN4人組は店の中へ。おじさんは何処かに消えてしまった。
そこからとくに何かあった訳でもないし、あのおじさんともあれから出くわすことはありませんでした。そして、結局あのおじさんがなんだったのか。どうして僕の名前を知っていたのかは、今でも分からないままです。しかし、あのおじさんの顔と、肩を掴まれた感覚。
そして、「○○の肉……」というセリフは、今でも脳裏に焼き付いて離れてくれそうには…ないです。
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