火葬技師Mの悪夢
投稿者:ねこじろう (150)
「火夫・火葬技師」とは、
火葬時に炉内を観察し、遺体が完全に焼けるように随時調節を行う職業のことを指す。
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すんませ~ん、すんませ~ん
彼方から間の抜けたようなじい様の声が聞こえる。
咄嗟に半身を起こし壁の時計に視線を移した。
午後1時過ぎ。
─もうこんな時間か、、、
俺は頭を掻きながら軋むパイプベッドから降りる。
それから上下ジャージ姿のまま四畳半の仮眠室の扉を開け、ふらふらと炉前ホールを歩き正面玄関まで歩いていく。
昨日は朝からパチンコで大負けし昼からここに来たんだが、機械の調整や炉の掃除をしているとあっという間に夜になってしまい、面倒くさいから酒を飲みながら仮眠室で一夜を明かしたというわけだ。
玄関前には木製の大八車が停められており、その上には、
棺が荒縄で縛り付けられている。
車の傍らには近くに住む岡田のじい様が落ち込んだ様子で立っており、その隣には報徳寺の住職が神妙な顔で並んでいる。
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俺がこの九州の片田舎にある小さな斉場に赴任して、ようやく3年が経とうとしていた。
恐らく半世紀以上前に建てられたであろうこの古い斉場には炉が一つしかなく、ご遺体の受け入れ、火葬、骨上げ、その全てをこの俺が一人で切り盛りしている。
そう言うと何かすごく仕事をしているように聞こえるかもしれないが、近辺の集落は過疎化が進んでいて実際にご遺体が運ばれてくるのは、だいたい2週間に1回くらいのペースだ。
だから普段は火葬場内の掃除とか機械の調整などをやっており、その他は自由な時間なわけで今年還暦でバツイチ独身の俺は自宅のアパートでぼーっとしたりパチンコで時間を潰したりしているというわけだ。
ただ2年ほど前くらいからパチンコ屋に行く頻度が増え、安月給の俺はとうとう消費者金融から借り入れまでするようになっていて情けないことに今はその返済に苦しめられている。
東京に嫁いだ一人娘が今の俺のこんな姿を見たら、果たしてどう思うだろうか?
恐らくはさぞかし軽蔑するだろうな。
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岡田のじい様のとこはここから一番近い集落で百姓をしている。子供はいない。
棺に収まっているのは多分病で長らく床に臥していた奥さんのキヨさんだろう。
「キヨがとうとう逝ってしもうたけんが、報徳寺さんと一緒にここに連れてきたんじゃわ、、、すんませんがの、よろしくたのんますわ」
そう言うと作業着姿のじい様は深々と頭を下げた。
型通りの手続きを済ませ、俺はじい様と一緒に棺を担架に乗せると、火葬炉の金属扉の前まで移動する。
豪華な袈裟を纏った住職が厳かにお経を唱え始めた。
じい様も隣で慣れないお経を唱えている。
緊張感がすごくてハラハラしました。
コメントありがとうございます。─ねこじろう
場景を想像したらゾッとした。
こういう話は嫌いじゃないぞ?
悪党焼き払ったの気持ち良すぎ
仕事ぶりが評価され、闇葬儀は繁盛した。私もそこそこの蓄えができ、生活にも余裕が出て来た。必殺仕事人の気分。そう、あの日までは。今、檻を見つめながら思う。情けない生活を送っていたあの日、黒光りする車を見た瞬間、自分は死んでいたのだ。世の中、理不尽なことだらけ。正義なんて存在しない。当たり前だ、自然界を見ればわかる。議員のどら息子?些細なことだ。いずれ皆、死ぬ。世の中、ひとりやふたり、いなくなっても、何事もなかったかのように時間は過ぎて行く。さあ、次の世界へ、いざ。
皆様、コメントありがとうございます。
ねこじろう
私刑執行されたのですね。
主人公の年齢設定だけが少し気になってしまいました。