火葬技師Mの悪夢
投稿者:ねこじろう (147)
俺は火葬炉の扉を開くと、
「じゃあ、じい様、いよいよお別れじゃ」と言って、
棺を乗せた担架をゆっくり押しながら炉内に収めていく。
「おお、おお、キヨ、お前には本当にいろいろ迷惑かけたけどな、あっちではどうか、どうか、ゆっくり休んでくんしゃい」
じい様はそう言うとまた慣れぬお経を懸命にあげだした。
ご遺体は個人差もあるが、おおよそ一時間ほどできれいにお骨になってしまう。
その間俺は炉の裏で小窓から中の様子を見ながら、バナーの調整をしたりする。
火葬が終了すると遺族に声掛けし、別室で「お骨あげ」の儀式を執り行う。
これが終わると遺族は骨壺を持って菩提寺に行くことになるわけだ。
全てを終えた岡田のじい様は住職を伴い、骨壺を持って報徳寺に向かった。
※※※※※※※※※※
梅雨時の天候は女心のように移り変わりが激しい。
その日も午前中は晴天だったのだが午後から急に雲行きが怪しくなり、じい様が帰った後くらいからボツボツと雨が降りだした。
炉内とホールの掃除、機械の調整を粗方終えた俺は、仮眠室内にある事務机の前に座り、缶ビールを飲みながらまったりと時間を潰していた。
ふと壁の時計を見ると時刻はもう午後7時。
この斉場は山肌を削り建てられているから普段はベッド脇の窓から木立がみえるのだが、今は闇のベールに包まれようとしている。
そろそろ帰るかな、、、
と立ち上がろうとした時だった。
ぱ~~~~ん、、、
突然車のクラクションの音がする。
─こんな時間に誰だろう?
仮眠室を出て炉前ホールに立ち正面玄関から外に視線を移すと、雨の中黒のライトバンが一台停車しているのが見える。
─おいおい、こんな時間から仕事なんて勘弁してくれよ
舌打ちしながら見ていると、車から黒いスーツ姿の男が一人降り立ち、ホール内に入ってきた。
男は長身の細身で、世界的ハッカー組織アノニマスの連中がしているような不気味なマスク(ガイ・フォークス・マスク)を被っている。
男の奇妙な風体に思わず俺が身構えていると、
「ここは火葬場で間違いないかな?」と当たり前のことを質問してきた。
俺は頷くと、
「そうだけど、もう今日の業務は終了したんだ。
悪いけど、また明日来てくれるかな」と答えた。
緊張感がすごくてハラハラしました。
コメントありがとうございます。─ねこじろう
場景を想像したらゾッとした。
こういう話は嫌いじゃないぞ?
悪党焼き払ったの気持ち良すぎ
仕事ぶりが評価され、闇葬儀は繁盛した。私もそこそこの蓄えができ、生活にも余裕が出て来た。必殺仕事人の気分。そう、あの日までは。今、檻を見つめながら思う。情けない生活を送っていたあの日、黒光りする車を見た瞬間、自分は死んでいたのだ。世の中、理不尽なことだらけ。正義なんて存在しない。当たり前だ、自然界を見ればわかる。議員のどら息子?些細なことだ。いずれ皆、死ぬ。世の中、ひとりやふたり、いなくなっても、何事もなかったかのように時間は過ぎて行く。さあ、次の世界へ、いざ。
皆様、コメントありがとうございます。
ねこじろう
私刑執行されたのですね。
主人公の年齢設定だけが少し気になってしまいました。