武勇伝・武勇伝

「そうだな、もう英雄(ひでお)じゃなく英雄(えいゆう)だよ、英雄(えいゆう)って呼ぶわ」と武志。

英雄がぼそっと語りだした。

「ウチさ・・・オレが小学校６年生くらいの時かな。父親が首つり自殺しちゃってさ・・・。発見したの、オレなんだ・・・。それからすごく大変でね・・・。
うん・・・だから死んじゃダメなんだ・・・絶対、なんとかできるんだよ・・・きっと・・・」

それを聞いた静香が、ぶわっと泣き出して
「ごめんね、ごめんね英雄、ごめんなさい!」
そう、謝りながらわんわん泣いていた。

・・・・・・

居酒屋で昔話を思い出しながらおっさんになった武志が語る。

「で、戻って来た康夫をボコしてから、みんなで飯食いに行ってさ、カラオケにも行ってさ、もう英雄は完全にオレらの仲間になったってワケ」

オレは驚いて聞き返した。
「いやいや、ちょっと待てよオイ、英雄と静香って２年くらい前に結婚したよな!?
もしかして、なれそめってそれなの??」

「あぁ、そうだよ。みんなには言ってないけどな」

「うそっ、はじめて聞いたぞ! 結婚式のスピーチでもそんな事なんにも言ってなかっただろー」

「言ってないもん。だいいち結婚式で心霊スポット行って自殺する幽霊を助けましたーなんて話、できるわけないだろ」

「ハハハ、そうか、そうなのかぁ～・・・って、武勇伝って、コレ、お前じゃなく英雄の武勇伝かよ!」

ガハハと大笑いしてごまかす武志。

高校を卒業後、静香は東京の美容師学校へ通い、英雄も東京の有名な工科大に入学して、
どうやらその後もずっと付き合いが続いていたらしい。
今では幸せな家庭を築いているという。残念ながら二人とも忙しくて地元の同窓会には参加できないようだが、
まぁ遠くから幸せを祈らせてもらうことにする。

例の心霊スポットは、それ以来もう幽霊は出ていないらしい。
英雄の行動が霊を成仏させたのかもしれない・・・そう思ったお話でした。