私のひいおばあちゃんは、昔はこの湖の底に住んでいたのだと言う。
どういうことかというと、昔から洪水量が多い地域であることと、湖が枯れた土地に家を建てたのが原因で、窪地にあった家は洪水量が多かった年に、浸水してしまったそうなのだ。
私が「不幸な事故だよね」といっても、ひいおばあちゃんはいつも「杏梨(あんり)と出会えたのもこの事故のおかげさ」と笑う。
確かに、ひいおばあちゃんは引っ越し先で出会った人と結婚したのだそうだから、運命だったのかもしれない。それに、この湖は私のお気に入りの場所だ。
湖の周りにはウォーキングコースがある。毎年春に親族全員で訪れるのだが、桜が咲き乱れ、木漏れ日の光がそれを照らしている様子は何度観てもとても綺麗だ。水の上に桜の花びらがまばらに浮いているのも哀愁を感じる。
そんな湖での話
今年で100歳を迎えたというのに元気なひいおばあちゃんは、私に不思議な話をしてくれた。
私は「この湖はどうしてこんなに綺麗なんだろう」と呟いたことがあった。
「杏梨、それはねこの湖の守り神様のお陰だよ。この湖に訪れたとき、毎年お供えものを供えるだろう。それも感謝の気持ちを伝えるためなんだよ。」
「守り神?」
「守り神は名前はないし、誰も本当の姿を観たことがない。ただ、どんな姿になれるっていうのは知られているんだ。」
「誰が知っているの?」
「それはね、杏梨もいずれ分かることだよ。湖の守り神様は、いつも助けてくださるから、ただ晴れの日は嫌いなんだ。杏梨も晴れの日は肌が乾燥するから嫌いだろう。」
「でも、みんなは杏梨が晴れの日に外に出れないっていうと不思議がるんだよ。」
「それはね、杏梨もいずれ分かることだよ。杏梨のお母さんも晴れの日に外に出てしまったから、神隠しにあったんだ。」
「…。そういえば守り神の話は?」
「これは、90年以上前の話かな。昔湖の底に家があったと話しただろう。浸水で無くなったのだけど、丁度その日に兄と私で訪れていたんだ。その時に2階の部屋で私は眠っていたんだ。階段の下まで浸水していて気づいたときにはもう絶体絶命だったよ。窓の外も水面が見えていたし、何も出来ない内に天井まで水が来てしまったんだ。必死に犬かきして息を吸っていたよ。それでも、水が天井まで達して息が出来なくなってしまったんだ。苦しくて、水が口にも鼻にも入るし、身体が沈んでいくんだ。」
「どうなったの?」
「その時に、守り神様の声が聞こえてこう言ったんだ」
『助ける代わりに、毎年この湖にお供えしなさい。親族もだ。そうすれば、雨の日は自由を手に入れられる。ただし、晴れの日には決して外に出てはならない。これが守れるなら助けよう。』
「私は、必死に助けてくださいって願ったよ。そうしたら、本当に助けてくれたんだ。発見されたとき、湖の湖畔に私が浮いていたらしんだ。本当もう奇跡だってね、大騒ぎ。けどね、大好きだった私のおばあちゃんも、意地悪だけど時々頼りになるお兄ちゃんも、料理が上手ですごいおじいちゃんも助からなかった。助かったのは私だけで、今でも遺体すら見つかっていないんだ。だからね、お花や御饅頭をお供えしているんだよ。」
ひいおばあちゃんは、お供えものを並べていく。その表情はみえないけれど、どこか悲しげに思えた。
お供えもののお酒を湖に入れると、湖のどこか遠くを見つめていた。まるで、ひいおばあちゃんにしか視えていない誰かと会話しているように思えた。
「ねぇ…、そういえば、どうして晴れの日に神隠しに遇うの?」
「…お母さんもお父さんも、そのことがあって行方不明になってしまったんだよ。運命だったのかも知れないけれど、私も湖の底に沈んでいたいって思うことが時々あるんだよ。」
「そうだったんだ。」
それしか言うことが出来なくて、逃げるように私は手を合わせた。
























主人公の母親と父親は行方不明のままなんですか?