地元の絶景スポットにて

これは、私の知り合いのAさんが体験した話です。

私の地元には、Mという名前の絶景スポットがあります。地元民なら誰でも知っているような、有名な場所です。

崖から綺麗な海が見えるため、特に夏には多くの観光客が訪れるスポットでもあります。

しかし、戦時中にその崖から飛び降りた人々が多く、また近年でもここで飛び降り自殺をして命を落としたというニュースがあるため、密かに心霊スポット化しているという事実もあるのです。

ある日、Aさんはテレビで心霊番組を見ていました。一般の人が撮影した心霊映像を集めて放送している番組です。

全国で放送されている番組ですが、その映像の中の１つに、私たちの地元で撮られたと思われるものがありました。「あれ？ここ、Mじゃない？」当時私もその番組を見ていましたが、確かにMで間違いなかったと思います。

その映像は、観光で訪れた撮影者が崖から海を映しているという内容でした。カメラが左から右へ動いている間に、崖のとある部分から人影のようなものが海へ向かって落ちていくのが映っていました。

撮影者は後日映像を確認している際に気付いたと言いますが、実際にはそのような飛び降り事件は無かったそうです。

Aさんは、天気の良いある日友人に誘われ、Mへ行くことになりました。あの映像が頭に浮かびましたが、友人は「崖から海を見たい！」と張り切っています。2人は車を走らせ、目的地に到着しました。

やはり多くの観光客で賑わっており、みんな写真を撮ったり柵にもたれて海を眺めたりしています。

Aさんとその友人も、崖ぎりぎりの柵まで近づき、青々とした美しい海を眺めました。暫くして、少し歩いてみることにしました。せっかく来たからと、Aさんも友人もカメラを回します。

ゆっくりと歩きながら、崖から海を撮影していきました。Aさんがカメラを右から左へ動かすと、向こう側の崖が映りました。そこは、ゾウの鼻のような形をしている崖で、Mの中でも特に有名な場所です。

すると次の瞬間、その崖から男性と思われる人影が海へ向かって転落していくのがカメラ越しに見えたのです。白いシャツに、ジーパンのような物を履いていました。「うわ！！」思わず叫び声をあげてしまいました。

しかし、男性が転落した付近にいる人々は驚いた様子がありません。友人にこのことを話そうか迷いましたが、せっかく景色を見に来たのに嫌な気持ちにさせては申し訳ないと感じ、黙っていることにしました。

その日の夜、Ａさんは自宅で先ほど撮った映像を確認しました。しかし、その映像には転落する男性など映っていなかったのです。

「見間違いかな…でもはっきり見えたよな…」モヤモヤしましたが、一旦寝てスッキリしようと考えたＡさんは、布団に横になって休むことにしました。そして、足元の方に2つ盛り塩をして置いておくことにしたそうです。

30分ぐらいたった頃でしょうか。Ａさんがふと目を覚ますと、体が動かないことに気が付きます。金縛りにあうのは初めてではありませんでしたが、先ほどの出来事を思い出し、怖くなりました。

すると、自分の足元に何かの気配を感じ、ゆっくりと視線をそちらに向けました。何と、男性が自分の足元に立っており、Ａさんの顔をじーっと見ていたのです。白いシャツに、ジーパン。先ほど見た男性です。

Ａさんはぎゅっと目をつぶり、いなくなれ、いなくなれ！と心で念じ続けました。しかし、目をつぶっていても、その男性がだんだん自分の方へ近づいてくるのが分かりました。「助けて…助けて…」と消え入りそうな声が聞こえます。

Ａさんは恐怖で押しつぶされそうになりながらも、「自分にはどうすることもできない！出て行ってください！」と必死に心で訴えます。すると、男性の声は止み、金縛りも溶けていきました。

Aさんは布団から出られず、朝までそのまま寝てしまったそうです。

翌日目を覚まし、布団から出たAさんは目を見開きました。足元に置いていた盛り塩が、２つとも崩れ、床にばら撒かれていたのです。Aさんは、この盛り塩が自分を守ってくれたのかもしれないと思いました。

もしこれが無かったら、あの後どうなっていたんだろう…。Aさんはそれ以来、Mへは一度も行っていないそうです。