桜の木
投稿者:にゃん某 (9)
これは、私と友人が、とある公園で体験した話です。
2月のある日、私たちはその公園へと足を運びました。そこは数えきれないほどの桜の木があることで有名な場所で、到着した頃には既にたくさんの人で賑わっていました。
実際に満開の桜を目にした私たちはその姿に圧倒され、記念にということで各々写真や動画を撮りながら歩き進めました。その公園はかなり広く、本当にたくさんの桜を見ることができます。順路が決まっているので、それに沿ってゆっくりと見進めることができるのです。
私たちの前には、4人の家族が歩いていました。両親と小学校低学年くらいの女の子、そして弟と思われる男の子です。私と友人は、初めからこの家族のすぐ後ろを歩き続けていました。
結構進んだところで、左右に分かれる道が現れました。右には数メートルしか道がなく、その先には1本だけ桜の木があります。
左にはそのまま桜並木が続いている状態です。歩き疲れた人々は右へ曲がり、足を止めて休んでいるようでした。私たちは、そのまま左へ進んで歩くことにしました。
前の4人家族も、左へ進むかのように見えました。しかし次の瞬間、突然男の子だけが右へ曲がったのです。両親と女の子はそれに気付く様子もなく、そのまま歩いて行きます。こんな小さい子がここで迷子になったら大変だ、そう思った私は、
「あの子、一人だけ右に曲がったね。他の家族に教えた方が良いかな?」と友人に言いました。
すると友人はぽかんとした様子で、「そんな子、いなかったじゃん。」と返したのです。
「え?最初から私たちの前を歩いてた男の子だよ?」
「3人家族でしょ?前を歩いてたのは。女の子はいたけど…男の子はいなかったって。」
何が何だか分からなくなった私は、一旦足を止め、右側の道へ曲がりました。数メートルしか道は無く、その先にはやはり桜の木があります。どこかに隠れられそうな場所もありません。
「ほら。男の子いないよ。」
友人の言う通り、こちらへ曲がったはずの男の子の姿がありません。
「でも…あ、そうだ。さっき撮った動画がある…!」
そう言ってケータイのフォルダを開き、先ほど撮った動画を再生しました。
「あれ…?」
信じられないことに、私たちの前には、友人の言うように両親と女の子の3人しか映っていないのです。
「…あんた、本当に見たの?」
「うん。最初からずっといたから見間違いじゃない。」
ぱっと左を見ると、両親と女の子の3人は男の子がいなくなっていることに焦りを見せるどころか、楽しく談笑しながらどんどん歩き進めていました。
「じゃあ、私が見たあの男の子は…?」
私たちは恐怖を感じながらも、奥にある桜の木の方まで行ってみました。ここは行き止まりで、先に道はありません。まるであの男の子が消えてしまったような感覚に陥りました。友人は、ケータイを横にして木の写真を5枚ほど撮りました。私は怖くて撮ることができませんでした。
早速、撮った写真を見てみることにしました。1枚目の写真からスライドしていきます。そして、4枚目の写真を見た瞬間、私たちは固まってしまいました。木のすぐ後ろの陰から、ぼんやりと小さい男の子がこちらを覗いているのです。
青白い顔をしたその子は、どう見てもこの世の存在ではありません。友人が写真を撮っている間、木の付近には私たち2人しかいませんでした。それに、5枚の写真は素早く連続で撮りましたが、4枚目だけに男の子が映っているのです。
友人は何も言わず、すぐに写真を削除しました。そして桜の木を後にし、他の人々と同じように左の道を歩きました。出口まで、私たち2人は一言も言葉を交わしませんでした。それは暗黙の了解のようでした。
あの男の子が何者だったのか、そして何故私たちの前を歩いていたのか、未だに分かりません。2月に桜を見るためにそこの公園へ行くのが毎年の楽しみですが、今後は足を運ぶたびにあの出来事を思い出してしまうことになりそうです。
まさかその桜の木の下には…