古屋の真実
投稿者:take (96)
足音を立てないように、その女性から視線をはずさず、じりじりと後退りました。
しかし、女性はKさんに気づくことなく、そのまま踊るように歩いて行き、角を曲がって見えなくなりました。
それを見届けるとKさんは踵を返して、慌ててその場から離れました。
それからしばらくKさんは、買い物に行く時は、その区画を通らないようにしました。
またあの女性に出くわすかもしれないと思うと、怖くてその家の前を通る気になれなかったのです。
その区画を通らなくなったまま、年が明け、春になりました。
気味の悪い出来事でしたが、時間が経ち、恐怖心も警戒心もかなり薄れてきていました。
休日の昼間に買い物に行く時、いまなら明るいし大丈夫だろうと、久しぶりにその区画を抜けてみました。
「あれ?」
件の古屋が様変わりしていたのです。
手入れもされず伸び放題だった木々は全て伐採されており、庭が綺麗に掃除されていました。
窓も雨戸が閉められ、玄関先にあった植木鉢やガラクタなどもすべてなくなっていました。
どう見ても住人が出ていったあとの、がらんとした空き家でした。
呆然と立ち尽くしていると、近所に住んでいるらしい犬の散歩をしている年配の女性が通りかかりました。
家の前に立っているKさんを見て、怪訝な顔をしています。
「あ、あの……この家、綺麗になったなあと思って……ここに住んでいた方、どうかなさったんですか?」
Kさんが尋ねると、女性は首を傾げながら、
「私もよくわからないんですけど……住んでいたのは私より年上の男性だったらしいんですけどね、年明けにすぐ業者さんがたくさんきて庭の木を切ったり、家の中から家具を運び出したりしてて……引っ越されたみたいなんですけど」
と、話してくれました。
あの日見た、不気味な女性と関係があるのかな、と思いつつ、なにがあったのか調べる術はありません。
それからまたしばらく経って夏のある日。
地元に住む女友達と久しぶりに会ってお昼を食べて、お茶を飲んでいた時です。
その友達は同じ地元の人と結婚していて、旦那さんの実家がリフォーム店を経営しています。
去年の秋ごろ、例の古屋から雨漏りがするから修理してくれと頼まれ、旦那さんが出向いたのだそうです。
「え? 旦那さん、あの家に行ったの、それでどうだったの」
思わぬ情報源にKさんは身を乗り出しました。
「それがね……七十過ぎくらいのお爺さんの一人暮らしだったんだけど、家の中がとにかく異常だったって」
壁という壁、天井から窓にまでびっしりお札が貼られており、あちこちにしめ縄飾りや神棚が祀られていて、盛り塩がそこらじゅうに置かれていたといいます。
「こうしないと女の悪霊が入ってくるんです」
と、お爺さんは言っていたそうですが、それ以外はいたって普通の人に見えたそうです。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。