その後、動転した私は驚くべきことを聞かされました。
隣の部屋に引っ越してきた夫婦なのですが、二人の間には子供がいなかったのです。
最近籍を入れたばかりの夫婦で引っ越してきてまだ子供を授かっていないみたいでした。
だから管理者に夜泣きの話をされたときも、まったく身に覚えがなくて、私がどこか違う部屋と勘違いしていると思ったらしいです。
昨日のことは夢だったのかと私は安心しました。
けれど、後から考えれば考えるほど、あのリアリティーがありすぎて詳細まで覚えているのが夢とは思いにくかったし、何よりこれまで聞こえた赤ちゃんの夜泣きが全部私の夢だったとは思えませんでした。
そうして私はアパートの管理者に相談しました。
そしてそこで、思わぬ情報がもたらされたのです。
実はもうずっと昔のことですがこのアパートで、自殺した人がいたらしいです。
自殺があった部屋は今は人に貸していないらしいのですが、私の話とそのときの話があまりにそっくり似ていて管理者の方は怖くなったらしいです。
そのときの自殺の原因も子供の夜泣きによる隣人トラブルで、まさに私の身に起こったことと一致しました。
最初は子供も道連れのつもりだったらしいですが、どうやら子供は奇跡的に生き残ったらしく、母親はそのまま亡くなったと聞きました。
気味が悪いので管理者に相談して、私はそのまま別のアパートを紹介してもらい、移り住むことになりました。
家を離れる日、自分の部屋を出て私はぎくっとしました。
なぜなら隣の部屋が少しだけ開いていて、隙間から赤ちゃんの泣き声がしたからなのです。
いつかの真っ赤な部屋を思いだして、私はぶるっと身震いしました。
そしてあの夜泣きはやっぱり夢じゃなかったと確信に至りました。
すぐにそこから立ち去りましたが、あの部屋はどこかに繋がっていたのでしょうか。
私にとってあのアパートはかなり鬼門だと思います。
あの日見たげっそりした奥さんは、きっと自殺したその人なのでしょう。
そしてあの日の私は奥さんを追い詰めた隣人だったのかもしれません。
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