より子ちゃん (加筆修正版)
投稿者:kana (217)
きっとこの子もボクと同じで、お母さんが買い物から戻るのを待っているんだろうな…。そんな風に思っていた。
「こ…こんにちは。お母さん待ってるの?」と聞くボクに、静かに首を振る少女。
どうしよう…。女の子とおしゃべりしたことなんかないから、何を話せば良いのかわからない…。
「な…名前はなんて言うの?」と聞くと、また静かに首を振る少女。
しばらく黙り込んだかと思うと
「名前…わかんない…」と消え入りそうな声で少女がつぶやく。
「えっ?名前わからないの?」
ボクは驚いたのと同時に突飛なことを言い出した。
今思えば子供だったからと言い訳したいのだが、ボクはその時
「じゃあ、名前を付けてあげるよ!」と言ってしまったのである。
いろいろ考えた挙句に付けた名前が「より子ちゃん」であった。
なんのことはない、前の日にテレビで見た映画の中に出てきたヒロインが「頼子」という名前だったのだ。
「じゃあキミの名前はより子ちゃんにしよう」
そう言うと、少女の顔はパァっと明るくなり、笑顔がこぼれた。
ボクは何か一緒に遊ぶものは無いかと考え、父にもらった小さな万華鏡のキーホルダーをポケットから取り出し
「ほら、ここからのぞいてごらん。キレイだよ」と言ってより子ちゃんに手渡した。
しばらく興味深そうに万華鏡を覗く彼女。
それをまた返してもらってボクも見る。
貸したり返したりしながら時間が過ぎていく。
なんとなくだけど、僕らの周りだけ少し光っているような気もするし、
11月だというのになんとなく暖かい。暖房のせいだけではないような気がする。
より子ちゃんと一緒にいると、なんだか暖かい気持ちになってくるのだ。
そうこうしていると、母親が戻って来た。
そんなに時間はたっていないが、いそいで見て回ってお宝をゲットしてきたらしく、ホクホク顔である。
「もう帰らなくちゃ・・・」
そう言いながらより子ちゃんの方を振り向くと、より子ちゃんはもういなくなっていた。
母親に手を引かれながら何度も振り返るが、より子ちゃんの姿を見つけることはできなかった。
ボクは突然できて、そして「さよなら」もいえなかったガールフレンドの事を母親には内緒にした。なんとなく恥ずかしかったからだ。
そしてなぜかその日から、ボクの体調は少しずつ良くなって行った。
次により子ちゃんに会ったのはその1ヵ月後、まさにクリスマスイブの日である。
S大学病院からの帰り道に、今度はボクが母親におねだりをして教会へ寄ってもらったのだ。クリスマスのイルミネーションに彩られた教会の中は、あたたかな色の照明が照らされ、高校生らしき合唱隊の讃美歌が響いている。
kamaです。こちらの作品は、去年のクリスマス時期に一度「クリスマス特装版」としてクリスマス色を強く出してお送りしましたが、本来のこの作品は「息子の誕生日」をきっかけに話が進むものですので、改めてこちらの作品をディレクターズカット(一度言ってみたかった)にして再掲載させていただきました。この物語の正式バージョンとなります。