そんなある日、会社で同じ開発部の先輩である山田さん(仮名)から、久しぶりに一緒に飲まないかと誘われた。
山田さんは3年ほど先輩で、いつも良くしてもらっているし、誘いに乗ることにした。
その日は仕事が休みだったから、遅く起きた後はテレビとビールとネット三昧だった。
<学校の物理担当のイケメン教師と付き合ってるんだけど、『この問題が解けたらHしてあげる』って言うから頑張って正解を出しら、それからは会うたびに問題を出してくるんだけど、最近、問題が簡単になってるって!」
(まあ、これはWin-Winってやつかな。でもさすがにこれは…)
<コンビニで店員にあんまんを頼んで、持って帰ったら肉まんだった。店に戻って説明すると店長らしき人から『ミスを憎んで客に肉まん!』って言われたから全てを許した。>
(これは…ダメ。さすがにこれは嘘…。)
<大阪に行った時の話。お好み焼き屋で会計を済ますと『はい、おつり200万円ね!』と言われて受け取ったら、本当に200万円だったよ!>
(さすが大阪、いや、さすがにこれは嘘…嘘松!)
明らかな嘘だった。俺は我慢できず、とうとう「嘘松」と書き込んでしまった。
しまったと思いながら、しばらくは何も書きこまないまま読むだけにして30分ほど経った。
(「嘘松」って書き込んだのに、何も起こらないじゃないか…。あの女占い師の言った事は何だったんだ?)
そんな事を考えながら時計を見ると、家を出る予定の時間になっていた。
電車に乗り、待ち合わせの居酒屋があるH駅で降りると、
(そう言えば、あの占い師に会ったのはこの左側の路地だったな…。)
その路地に行けば、またあの女に会えるかもしれない。
もし会ったら、大変な事など何も起こらなかったと文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、約束に時間に遅れそうだったので、その路地には結局行かなかった。
その後は、約束通りに居酒屋で山田さんと合流し、気持ちよく飲んでいた。
会話が弾んでいくと、例の占い師の話になった。
「そう言えばこの前、そこの裏通りで変な女占い師に会ったんですよ~。」
「変な占い師?何か言われたのか?」
「ネットに『嘘松』って書き込んだら変な事が起こるそうです。でも何も無かったんですよ。」
「なんだそりゃ。でも『嘘松』なんて安易に書き込むような精神状態が良くないって事だろ?」
「確かに、しばらくの間『嘘松』って書かないようにしたら、気分が良くなったような気がしてました。」
「してました?過去形か?」
「さっき家でネットを見てたら、明らかな嘘が書き込んであったんで、つい『嘘松』って…。」
「そうか。まあ、でも書き込んだもんはしょうがないし、気持ちを落ち着かせてこれから妙な行動を起こすなって事だろうな。」
「そうっすね。」
そんな会話をしているうちにかなり遅くなってしまったので店を出る事にした。
居酒屋はH駅からは少し離れているので、大通りを一つ渡らないといけなかった。
数年前に、これと少し似た話を書き込んだことがあるので、もしかしたらそれを読んだ方がいるかもしれません。その時は占い師ではなく、喪●福蔵でしたが。
作者より
ネット廃民ほどおもろい滑稽な存在はいない