べとべとさん
投稿者:キノ (7)
「べとべとさん」という妖怪がいます。夜道を一人歩きしていると、後ろからついてくる足音だけの妖怪です。つけられたまま転ぶと食べられてしまうそうです。子供の頃妖怪図鑑で読んだときは、暗い夜道は危ないことを警告する存在だったんだろうなと思っていました。
一人で残業した帰り、深夜とは言えまだ他社にはポツポツと明かりがついているオフィス街を歩いていた時のことです。後ろからコツコツと、ハイヒールのような足音がします。ああ同じ働く女性か、お互い大変ですねと思いながら歩いていました。足音は付かず離れずついてきます。
でも、妙な違和感がありました。後ろから街灯で照らされてできる影が私の分だけなのです。スマホを見ているふりをして、インカメラで後ろを見てみました。誰もいません。隠れられるような路地もありません。そもそも足音は途切れずについてきます。その日はスニーカーだったので、私の足音ではありません。
意識すると途端に怖くなり、足がもつれ始めました。スニーカーの紐が今にも解けそうになっていました。その時、図鑑の言葉を思い出しました。「べとべとさん、先へお越し…」と小声で唱え道の端に寄ると、私の横を少し足早に、足音だけが通り過ぎていきました。
過労気味だったのは認めます。普段と違って人気がないというだけで怖かったのも確かです。しかし、何かよくわからないものは現代でも都心でもいるのだと思います。あの時呪文を思い出す前に転んでいたらどうなっていたのか、今でもたまに考えます。
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