とある峠道の話
投稿者:キノ (7)
就職で引越した土地に、「出る」と噂の峠道があります。
心霊スポットが好きだったので調べに調べたのですが、「女が立っている」(ありがちだしそばに住宅街があるので人がいることくらいありそう)とか、「妙に事故が多い」(峠道なので狭くて急カーブが多いから当然)とか、具体的なことはイマイチわからず興味が持てなかったので、足を運ぶこともなかった場所でした。
2年前、車で自宅からちょっと離れた仕事場に行った帰り、渋滞を避けて走っているうちに、狭苦しい峠道に迷い込みました。両側が斜面という、いわゆる切り通しという地形です。すれ違うのは無理そうな幅のグネグネ道が延々続いていて、対向車が来ないことを祈ってひたすら走っているうちに、左手に小さな小屋が見えました。古ぼけて汚くなってはいたけど、お地蔵さんのようでした。誰か事故ったのか…と嫌な気持ちになり、少し先の待避所で2回ほど切り返して無理やりUターンしました。
少し走ってそろそろお地蔵さんのあった場所だと思い、スピードを緩めてみたのですが、お地蔵さんがどこにもありません。行きは左だったから今度は右にあるはずなのに、どこにも。見間違いだったかと視線を正面に向けると、真っ赤なレインコートを着た5歳くらいの子が一人でヨチヨチと歩いてくるのが見えて、慌ててブレーキを踏みました。仕草だけで驚かせてごめんねと伝えると、子供はフードの下の口だけでニヤリと笑いました。
なんだか気味が悪くてドキドキしながら、以降は人通りも車通りもない峠道を抜け、無事に帰ってから地図を見て、そこが例の「出る」峠だったと知りました。改めて調べると、お地蔵さんが目印だそうで、子供が出るという噂はありませんでした。
私には、行きにあったあのお地蔵さんが子供に姿を変え、気をつけるように伝えてくれたように思えたと同僚に話したら、彼はこう言ったのです。「誰にも顧みられてないお地蔵さんって、何か変なものになっちゃってるのかもしれないよ。例えば事故を誘う魔物のような…帰ってこられてよかったね」その時初めて、あの子のひん曲がった笑顔を思い出して、ゾッとしました。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。