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心霊

砂の唄さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

不気味な昔話
長編 2022/12/17 00:50 2,036view
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これは僕がたぶん保育園で聞かされた昔話だ。題名も覚えていないし、所々間違っているところもあるだろう。ただ、その昔話が何となく不気味で怖いものだったということはよく覚えており、みなさんにも紹介したいと思う。

ある村に親切で働き者の弥助という若者がいました。弥助は畑仕事や荷物を運んでいる人を見かけると「どれ、手伝ってやろう」と言って仕事を手伝ってやるのでした。なので村人たちはみんな弥助のことが大好きでした。

しかし、村の中には弥助を嫌う人もいました。たつ、竹次、八太郎の三人の若者たちです。この三人は仕事もせずに毎日遊び歩いていました。弥助はこの三人と出会うといつも説教をするので、三人組はおもしろくありません。しかも、弥助は喧嘩も強かったので三人が殴り掛かっていってもいつも返り討ちにあってしまうのでした。

ある日弥助は荷車にたくさんの薪を積んで山道を登っていました。村の近くには小さな山があって、弥助はその山を越えて隣の村へ薪を運ぼうとしていたのです。ただ、薪を山盛りに積んでいたためか、途中でバランスを崩して片方の車輪が道から外れてしまいました。幸い荷車は下まで落ちてはいきませんでしたが、弥助一人では荷車を元の道まで戻せそうにありません。

すると山の上の方からたつ、竹次、八太郎の三人が歩いて来るのが見えました。弥助は三人組を呼び止めると荷車を上げるのを手伝ってくれと頼みました。三人組はそのまま通り過ぎようとしましたが、寄り集まって何かを相談して「もちろん手伝いましょう」とたつが弥助に向かって答えました。

「俺達三人は上から引っ張るから、弥助さんは下の方から押してくださいな」よしきた、と弥助は斜面を少し降りて荷車の後ろの方へ行きました。「それじゃ引っ張りますよ」たつがそう声をかけると、隣にいた竹次と八太郎は思いっきり荷車を蹴っ飛ばしました。弥助は荷車に押されて斜面を転がり落ちていき、そのあと落ちてきた荷車とたくさんの薪に押しつぶされてしまいました。

三人組は斜面を下っていき、しばらくの間薪の下敷きになった弥助を見ていました。弥助が這い出てこないので死んだだろうと思い「ざまぁみろ」と吐き捨て、三人組はその場を後にしました。夕方他の村人が弥助を見つけ、助け出そうとしましたがすでに弥助は死んでいました。村中が弥助の死を悲しみました。あの三人組を除いて。

弥助が死んで少し経った頃、三人組は山の頂上のあたりをふらふら歩いていました。「おい、煙が見えるぞ」たつが二人に向かって言いました。「どこだ、どこだ」竹次が煙の場所を見つけようと近くの大きい岩へ上りました。「あれは隣村だな」竹次は体を揺らしながら煙の方を見ていました。「おぉ!?」突然竹次は何かに押されたかのように体勢を崩し岩の上から転げ落ち、山の斜面をすごい勢いで落ちていきました。たつと八太郎は急いで岩の近くまでやってきて下の方を見ましたが、竹次はずっと下まで落ちて行ったようです。

二人は走って山を下り始めました。下っている途中で八太郎が「おい、疲れちまったよ。そこの川で水を飲ませてくれ」と言いました。二人は川の近くまで行き八太郎は川辺にしゃがんで水を飲もうとしました。八太郎が身をかがめた瞬間、八太郎の体は誰かに押されたように前のめりに倒れこみ上半身が川に浸かってしまいました。たつは後ろの方で「慌てやがって。このドジが」と思って見ていましたが、八太郎が手足をバタバタさせるだけで一向に起き上がらないのでたつも川辺へ走りました。たつは八太郎の襟の部分を掴んで引っ張り上げようとしましたが、八太郎の体は何かに押さえつけられているようでまったく持ち上がりません。しばらくして八太郎の手足が動かなくなり、たつは青い顔をして村へと走り出しました。

村では竹次の死体が見つかって大騒ぎになっていました。そこへ現れたたつは問答無用で近くの納屋へ引っ張られていきました。納屋に村の男たちが集まり、みんなたつが竹次を殺したのだと思っていました。そんな中で半狂乱になったたつが「八太郎が死んでしまった」と口走ったため男達は「八太郎まで!」と話もろくに聞かずに、納屋にあった棒を各々手に取ってたつを殴り殺してしまいました。

たつが死んでしまった時、納屋にいた一人があることに気が付きました。たつの死体のそばに血の付いた棒が一本転がっていたのです。たつを殴り殺した四人の男たちは全員手に血の付いた棒を持っています。はて、もう一人いたかな?と思いましたが「死体を片づけるぞ」と号令がかかりみんな移動し始めたのでそのことはうやむやになりました。

その夜のことです村長の家に茂三という中年の男とお初という若い女が駆け込んできました。二人ともひどく慌てていて何を言っているか分かりませんでした。

最初にお初の話を聞くと、ついさっきのこと、六歳の息子が土間で父親の肩たたきをしていて自分は外に出ていた。しばらくすると床をどんどんと叩く音がしたので何事かと家に戻ると、なんと息子が後ろから父親の首を絞めていた。お初は急いで息子の手をほどこうとしたが、どう考えてもそれは子どもの力ではなくお初ではとてもほどくことができなかった。息子も泣きじゃくりながら必死に手を離そうとしているのだが、全く動かずついに父親は死んでしまった。

次に茂三の話を聞くと、茂三は包丁を研ごうと思い、台所で包丁を片手に砥石を探していた。なかなか見つからないので砥石の場所を聞こうと洗い物をしていた女房の方に体を向けたとき、突然包丁を持っていた手が誰かに押されたように動き、女房を刺し殺してしまった。という不可思議なものでした。茂三は夫婦仲がよいことで有名であり、女房を殺すような理由もまるでありませんでした。

村長は二人の話を聞いて、お初の息子にも話を聞ききました。この二つの出来事にはある共通点がありました。包丁が茂三の女房の方に向いた時、お初の息子が肩もみをしようとした時、二人とも同じ声を聞いたのでした。その声は確かにこう言っていました。「どれ、手伝ってやろう」と。

村長は夜中にもかかわらず、村人全員に明日一日中刃物を持たない、他人の体に触らないという何とも奇妙な命令を出しました。そして村の神主に相談して何とか弥助の魂を何とかする方法を話し合いました。そして次の日、村の中央で大きな火を焚き、お供え物を準備して神主が祈祷を行うことになりました。

次の日、村の男たち数人が村の中心に祭壇のような棚を準備し、火を起こすための薪を集めてきました。この男たちと神主、村長以外の村人は万が一のために家の中でじっとしているように命じられ、祈祷が始まりました。薪の山に火がつけられ神主は何やらお経とも呪文ともわからぬものを読み上げ始めました。神主は時折「もっと火を強くしなければ。これではだめだ」と言い、その度に男たちはせっせと薪を投げ入れました。男たちが薪を投げ入れていると村中の誰もがはっきりと声を聞きました。「どれ、手伝ってやろう」

声が聞こえるや否や、村中の家や小屋すべてから煙が上がり瞬く間に火が燃え上がりました。家の中にいた村人は逃げる暇もなくみんな焼け死に、村の中央にいた男たちや神主、村長も周りから流れてきた煙に巻かれてみんな死んでしまいました。こうして村人全員が一瞬で死んでしまったのです。

最初にも言ったが、僕はこの昔話について覚えていることはあまりない。ただ、確かこの話をしていたのは年配の女の先生で話の締めくくりはいつもこうだったと思う。「みなさんはこのお話で悪いのは誰だと思いますか?そうです、村人全員ですね。いっぱいお世話になった弥助を最後には追い出そうとするのですからひどいことですね。死んで当然です」そうにたにた笑いながら話すのだった。

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