お迎えフロア
投稿者:ねこじろう (147)
目覚めた時は病室が変わっていた。
以前は個室だったのが4人部屋になっている。
ただ2つのベッドは空だ。
今回が2度目の手術だった。
耐え難い胸部の痛みで救急搬送されたのが去年の末。
それまでも、ひどい咳き込みや吐き気、胸部の痛みなどはあったのだが、生来の呑気な性格から病院に行くことを怠っていた。
まだ23歳と年齢が若いということもあった。
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10代の頃ヤンチャしていた俺は何度も警察にお世話になっていた。
そしてとうとう18のときに親父と大喧嘩の末勘当され九州の実家をとびだしてからはバイトしながら地方を転々とし、最後は大阪市N区のドヤ街で住み込みの日雇いをしながら生活していた。
そこは【人生の吹き溜まり】と言われるくらいひどい環境のところで、路地裏や公園には浮浪者がたむろしている。彼らのほとんどが明日の食事さえもままならないような状態だった。
若いという過信からか、俺はろくな食事もせずにベビースモーキング、深酒、クラブ通いと好き勝手にやっていた。
思うと去年末の緊急入院、手術は当然の結末だったかもしれない。
医師の診断結果はステージ3の肺がんということだった。
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入院した病院の院長は【博愛主義】が信条らしく、食料不足で苦しむ者に対して毎日無料の炊き出しを施していて、病院入口前には毎朝飢えた浮浪者たちが行列を為している。
また臓器移植などに関しても、心臓や腎臓とかに不治の疾患を持つ全国の患者に対して無償で新鮮な臓器を提供したりしているようだ。
入院前には俺もたまに朝の炊き出しに参加して、暖かいシチューとおにぎりをご馳走になっていた。
以前の部屋と比べると、随分とカビ臭くて殺風景な室内の様子だ。
相変わらず鼻には酸素注入器が差し込まれ胸のあちこちには電極が、腕には点滴がされている。
ベッドの横手にはスタンド式の液晶パネルが置かれていて、心拍の波形を常時示している。
ふと顔を上げると前のベッドに横たわる男と目があった。
頭部にはぐるぐる包帯が巻かれている。
頬のこけた土色の顔に無精髭。
ブルーの病院着の胸元からは、あばら骨が浮いている。
俺と同じように鼻には酸素注入器、胸には電極、腕には点滴がされていて、同じくベッド横にスタンド式液晶パネルが置かれていた。
男は黄色く濁った目をギョロギョロさせながらこっちを見ると不気味に微笑み、
「ようこそ、【お迎えフロア】へ」と呟いた。
「お迎えフロア?」
聞き慣れない言葉に思わず聞き返す。
人肉系ね・・・
臓器売買かと思ったらそっちかーい!!怖!
死体の肉が患者に配られ、もしその患者が死ぬとまた肉になって配られる。
最悪の循環…