窓を開ける人
投稿者:ぞっくかね (3)
3年前、私が大学に入学した頃の話です。
大学は実家から通える距離にあったのですが、当時の私は一人暮らしに憧れがあり、親に頼み込んで下宿を借りることになりました。
入学前に候補の建物を何件か見て回った中で、最も年季が入ったアパートの部屋が気に入ったのでそこを借りることにしました。その部屋はアパートの外観こそボロボロだけど、部屋の中はピカピカに綺麗だったのです。
大家さんの話によると、以前の住人である薬学生が退去する際に、あまりに部屋が汚かったため大幅なリフォームを行ったとのことでした。その薬学生はずっと部屋の中に閉じこもって研究のようなことをしており、部屋の壁がタバコのヤニと薬品の異臭で修復不可能な有様になっていたそうです。
大家さんは若干トラウマになっているようで、私に「換気をしっかりするようにお願いします」と何度も説明してきました。もちろんです、と私も返事をしました。
無事入学を終え、一人暮らしも落ち着いてきたタイミングで、私は大学で仲良くなった友達と2泊3日の旅行に行くことになりました。
楽しく旅行を終えた日の夜、クタクタになりながらも上機嫌で帰宅した私でしたが、部屋の電気をつけた瞬間体が固まりました。部屋の窓が少し開いているのです。
旅行に出発した日は窓を閉めて出かけた気がします。もしかすると泥棒・・・と思いましたが、部屋のものは何も盗まれていなかったので、単純にうっかり閉め忘れていただけかな、と考えてその日は寝ました。本当に泥棒に入られても困るし、今後は気をつけよう、と心に決めながら。
しかしそのようなことが、その後何度も発生したのです。
私が長い時間家を留守にすると、決まって窓がわずかに空いています。しかし部屋の中に変化は何もありません。あまりにも気持ちが悪いので、私は大家さんに相談してみることにしました。
大家さんは「それは困ったな」と言い、これからは自分がアパート周りを巡回する回数を増やす、と言ってくれました。
もし本当に泥棒だったら、それくらいじゃ不十分なのでは?とも思いましたが、大家さんが巡回を増やしてからは窓が勝手に空いていることはピタリと無くなりました。私は心底ホッとしました。
それからしばらくして夏がやって来ました。
その日は授業レポートを図書館で遅くまで執筆していたので、家に帰る頃には辺りが真っ暗になっていました。
鍵を開けて部屋に入った瞬間、私の肌は違和感で包まれました。部屋の空気が外気温とあまり変わらないのです。
私は暑がりなので、外出する時も基本的に部屋のエアコンはつけっぱなしです。その日は確かに家を出る前は部屋が冷えていたのですから、エアコンが壊れたとしか思えません。
しかし私がそう考えている間に、徐々に部屋の空気は冷え始めました。なぜこんなにタイミングよく?
私は怖い可能性に辿り着きました。
もしかすると、窓を開ける行為はまだ続いているのかもしれません。何者かが窓を開けて侵入して、律儀に窓を閉めて出て行っているのでは。
そして、たった今それが行われていたのでは。
しかし、そもそも窓には鍵がついているんです。一体どうやって。
らちが明かなくなった私は、隣人に話を聞いてみることにしました。私の部屋の右隣は空き部屋ですが、左隣はぶっきらぼうで近寄り難い感じの男性が住んでいました。もしこの人が犯人だったら・・とか失礼なことを考えながらも、意を決してインターホンを鳴らしました。
遅い時間にもかかわらず隣人は起きており、思ったより親身に質問に答えてくれました。
結論から言うと、この聴き取りで犯人がわかりました。勿論この隣人ではありません。
犯人は大家さんでした。彼はマスターキーで堂々とドアを開けて侵入し、窓を開けて換気を行っていたのです。
隣人の話によると、大家さんがアパートの周りを懐中電灯を持って歩き始めるタイミングで必ず、私の部屋の鍵や窓を開ける音が聴こえていたのだそうです。
しかも、今し方も大家さんの巡回があったばかりで、音も聴こえたのだそうです。
「不自然だとは思ってはいたが、まさか無断で行われていたとは」などと隣人から謝罪を受けましたが、私は恐怖と気持ち悪さでそれどころではありませんでした。
警察を呼ぶと大事になる(次に侵入されたタイミングで現行犯逮捕か、監視カメラで録画をしておくか等、証拠を確保するのにも時間もかかる)ため、事件化はせずに直ぐ退去手続きを済ませて、私は実家に帰りました。
昔ながらの直接管理住居ではこうした管理者と入居者とのトラブルケースが少なくないと言います。
皆さんも、一人暮らしの際にはお気をつけてください・・・。私は一生実家で暮らすつもりです。
大家やべえ・・・
強迫観念的なものだったのかな
だいたい犯人は大家さんよねー
ためはち