【裏拍手】─死者を誘う拍手─
投稿者:ねこじろう (154)
だが5分しても10分しても彼は両手をだらりと下げたままで、箸にさえ手をつけることはなかった。
「そうか、疲れてるんだね。
食べることなんかより今は寝たいんだ」
麗奈は一人呟き男を寝室に連れていくと、ベッドに寝かせ、自分は下の床に横になった。そして時折横顔を覗き込んでみたが、彼は相変わらず天井を見詰めたまま、微笑み続けていた。
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そんな感じで一週間が過ぎた。
その頃になると麗奈の心には、次第に暗雲が沸き起こりだしていた
それはいつもの晩御飯の時のこと
毎度の如く麗奈の前に座った男は、目の前に置かれた料理には一瞥さえもせず、ただじっと虚ろな目をして微笑んだまま座っているだけだ。
彼女は上目遣いで彼の顔を見ながら口を開く。
ただその口調にはいつもと異なり、刺があった。
「ねぇ、劉生、こっちに戻ってきてからもう一週間になるけど、そろそろ何かしゃべったら?
私とは何も話したくないというの?
それとももう私のこと嫌いになったの?
ああ、分かった、もしかしたら、あっちの世界で好きな人が出来たんでしょ。
そうよ、そうに違いない。
……………
ねぇ、お願い、お願いだから何とか言ってよ!」
思わず彼女は湯呑みに入ったお茶を、男の顔にぶちまけた。
だがやはり彼はだらりと両手を下げたまま微動だにせず、宙の一点をただ見詰めて微笑み続けている。
とうとう彼女はバンとテーブルを叩いて立ち上がり、彼の真後ろまで歩くと、その耳元に口を近付け「今日もわざわざご飯作ってあげたんだから、一口くらい食べなよ!」と叫ぶ。
その時だった。
男の右肩がピクリと動いたかと思うと、ゆっくり右手を持ち上げ箸を掴んだ。
「え!?」
その様を見た麗奈は驚いた表情で後退りする。
そして震える声でこう言った。
「ち、ちがう、
チガウ、
違う!
あなた、、、
り、劉生じゃない、
劉生じゃない!」
えっ?