【裏拍手】─死者を誘う拍手─
投稿者:ねこじろう (154)
彼女は鏡を睨みながらしばらく立っていたが、やがて辺りを見回し「まさかそんなこと、起こるわけないか」と苦笑いすると、また遺影を両手に持ち浴室を出た。
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翌日は仕事が休みだったから、麗奈はいつもより遅めにベッドから降りた。
既に9時を過ぎている。
昨日ベランダに干した洗濯物を取り込もうと、彼女はサッシ戸のカーテンを一気に開けた。
「ひ!」
とたんに心臓が止まるくらいに驚き、思わず尻餅をつく。
透明なサッシ戸の向こうに、くっつくようにして劉生らしき男が立っていた。
ただその顔には生前の面影は欠片もなくげっそり痩せこけていて、焦点の定まらない2つの瞳で微笑んだまま呆けたように立っている
しかも衣服は何も身に付けておらず素っ裸だ。
身体のあちこちには痛々しい傷があり、全体に薄汚れている。
「劉生、、、劉生なの?」
麗奈は呟きながらゆっくり立ち上がりサッシ戸を開け、男を室内に招き入れ、そのまま浴室に連れていくと熱いシャワーで隅々まで洗ってあげた。
そしてタオルで拭くと、とりあえず白いガウンを着せる。
その間、男は終始笑顔で無言だった。
それから居間に連れていくと、ダイニングテーブルの前に座らせ、向かい合って彼女も座る。
そして麗奈は、虚ろな目で微笑む男の顔を見ながら話し始めた。
「劉生、ありがとう。
私のために帰ってきてくれたのね
本当に嬉しい。
ねぇ、あっちの世界はどうだった?
やっぱりこっちとは違う?
いっぱい話を聞かせてよ」
果たして麗奈の問いかけが聞こえているのかいないのか、男は相変わらず虚ろな目で宙の一点を見ながら、じっとしている。
「ごめん、ごめん、お腹空いてるんだね?
すぐご飯作るから、ちょっと待ってて」
そう言って彼女は立ち上がると台所に行き、料理を準備し始めた。
やがて男の前には、野菜炒めとご飯、それと味噌汁が並んだ。
「ごめんね、劉生、急だったから、そんなものしか出来なくて。明日はあなたの好きなハンバーグ作るから」
そう言って麗奈は男の前に座る
えっ?