人権尊重の時代
投稿者:件の首 (54)
「――田中さん、大丈夫ですか、分かりますか、声聞こえますか」
聞こえてる、という意味で手を挙げようとする。
ひどく腕が重い。
確か寝る前は……そうだ。
高速道路で運転していた時、中央分離帯を越えて、反対車線を走っていたトラックが転がって来た。
目の前がトラックでいっぱいになって、その後は――。
「俺は……死んだんじゃ、なかったのか?」
「はい。確かにあなたは医学的に死んでいました。ですが、生命に関わらない部分の組織を、保存してあったのです」
目を開くと、声の主は医師らしき白衣の女だった。
「それを発見した私たちのチームの研究によって、あなたは生き返ったのです」
「一体どんな未来に来た?」
「それほどでもありませんよ。ほんの20年です」
「ジョークなら良いんだけどな」
どうにか身体を起こす。
「とりあえず、新聞を読みたいな」
その時、ドアが激しく開いた。
未来でもセンスの変わらない警官が押し入って来た。
「――つまりですね、あなたは被害者なのです」
警察署内で、刑事がタブレット端末の画面に見せながら説明する。
「連中は、あなたの死体を実験材料にしたのです。これは大変な犯罪です」
「死体を実験に使っただけで?」
「あなた方の時代は分かりませんが、法律が改正されて、死体にも人権が認められるようになったのですよ」
「はあ」
「もっと早く逮捕していれば、あなたのような被害者を出さずに済んだのです。いやはや、申し訳ない」
「いや、そう謝って頂く程の事も」
「すぐに原状復帰致しますので」
次の瞬間。
警官は発砲した。
腕が吹き飛んだ。
「ああ、じっとしていて下さい」
逃げようとした背中に命中する。
「元よりも壊れた体になってしまいますよ!」
よろめきつつドアノブを掴もうとした手が、消し飛んだ。
こわいてすね。