デビューに合わせて
投稿者:件の首 (54)
小さい頃から夢だった、芸能事務所の所属が決まった。
「――あなたの場合、アイドルとしてのデビューを考えてるんだけど、今、恋人はいるかしら?」
「いません!」
マネージャーさんに尋ねられ、思わず即答していた。
『どういう事?』
スマホで別れのメッセージをユウに送ったが、返って来たのは戸惑いの返事だった。
『アイドルデビューするから、恋人がいるとマズいの』
『そんなの正直に言わなければ良いでしょ?』
『どこでスクープされるか分からないでしょ』
『そもそも恋人とか気にするのアイドルヲタクぐらいでしょ』
そこが客層なんだってば。
ああ、面倒臭い。
夢に手が届きそうな時に。
夢の重さが分からないから、簡単な事のように言う。
『前からそういうとこ嫌いなの』
次のメッセージまで、間があった。
『恋人を犠牲にして夢が叶うとは思うなよ』
――ユウがストーカー化するかと思ったけど、何もして来なかった。
けれどそれがかえって不安を煽った。引っ越しても、不安は収まらなかった。
気が休まる間もないまま半年が過ぎた。
「デビューライブ、決まったわ」
その日のレッスンを終えた私に、マネージャーが切り出した。
「小さいハコですが、まずは満席を目指しましょ」
会場は、私がファンのアイドルも出演した事があるライブハウスだった。
『夢が叶うと思うなよ』
ユウの捨て台詞が浮かんだ。
ユウが狙うなら、デビューライブの時。
「マネージャー!」
「……ああ、やっぱりそういう人、いたのね」
マネージャーは微笑む。
「分かったわ。警備員を増員しておきましょ」
「良いんですか?」
「社長もあなたに期待してるからね。多少の無理は聞いてくれる筈よ」
「ありがとうございます!」
警備員がユウだったってこと?
やっつけちゃいなよ
と、思うじゃん?と言い方がきもくてヒトコワかと思った