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意味怖(意味がわかると怖い話)

ALICE橘さんによる意味怖(意味がわかると怖い話)にまつわる怖い話の投稿です

焼かれた記憶:深海の怨嗟
短編 2026/07/06 19:45 18view

深夜二時。閉店後の「魚太郎」店内は、冷えた油の匂いと、どこか腐敗したような生臭さが混じり合った異様な空気に包まれていた。カウンターの上に置かれた鉄板は、まだ微かに熱を帯びている。店主である私は、最後の掃除を終えようとしていた。しかし、その時だった。

ガタリ、と厨房の奥から音がした。

「誰だ?」

呼びかけに答える声はない。ただ、湿った何かが這いずるような、不気味な音だけが響く。懐中電灯の光を頼りに暗闇を進むと、冷凍庫の前で一つの影がうごめいていた。それは、売り切れずに残っていたはずの「たいやきくん」ではなかった。形は崩れ、黒焦げになった皮は炭のように剥がれ落ち、中からは白く濁った液体が滴り落ちていた。

「……助けて……」

かすかな、しかし確かに人間の子供のような声が聞こえた。私は凍りついた。あのマスコットキャラクターは単なる菓子ではないのか? それとも、何か別の存在が宿っているのか?

翌日、店は通常通り営業していた。しかし、客足は極端に減っていた。噂が広がっていたのだ。「魚太郎のたいやきを食べると、夢に溺れる」という奇妙な風評。半信半疑で訪れた常連客が、夜中に金縛りに遭い、水の中で溺死しかけたというのだ。彼らは口を揃えて言った。「冷たい水の中に、焼けた顔をした子供たちが大勢いて、僕たちを引っ張ろうとした」と。

その夜、私は真相を探るために店に残った。監視カメラの映像を確認すると、驚愕の事実が浮かび上がった。閉店後、誰もいないはずの店内で、たいやきくんの人形が勝手に動き出している。そして、それらが集まり、円を描くように踊り始めたのだ。その中心には、古びた写真が置かれていた。それは、かつてこの土地にあった孤児院の焼け跡の写真だった。

戦前、この場所には「海の家」と呼ばれる施設があった。戦争激化に伴う食糧難の中、子供たちは餓えに苦しんでいた。ある日、漁師たちが大量のタイを持ち帰った。喜ぶ子供たち。しかし、それは罠だった。施設を運営していた者たちは、子供たちを生贄として海神に捧げる迷信的な儀式を行っていたのである。焼かれたタイの形に模された焼き菓子は、その儀式の名残であり、呪いの媒体だったのだ。

「おいで……一緒に……泳ごう……」

背後から冷たい息吹きがかかった。振り返ると、そこには無数の「たいやきくん」が壁一面に張り付いていた。彼らの瞳はなく、空洞になった目穴からは黒い海水が溢れ出し、床を濡らしていく。水位は瞬く間に膝まで達し、やがて腰、胸へと迫ってくる。水温は氷点下近く、骨まで凍みるような寒さだ。

逃げようとしても、足が絡め取られる。見下ろすと、床の下から無数の小さな手が伸び、私の足首を掴んでいた。それらは焼けた皮膚を持ち、指先は炭のように脆く、それでも執拗に私を引きずり込もうとする。

「君も、私たちの仲間になるんだね」

耳元で囁く声は、多数の子供たちの合唱のようだった。意識が遠のいていく。肺の中に海水が流れ込む感覚。視界が歪み、赤黒い世界に沈んでいく。最後に目にしたのは、カウンターの上に置かれた、笑顔のままのたいやきくんのパッケージだった。その笑顔が、今にも泣き出しそうなほど悲しそうに見えた。

翌朝、警察が店を訪れた。店内は水浸しで、店主である私の姿はどこにもなかった。ただ、冷凍庫の中から、一つだけ完全な形のたいやきが見つかった。それを割ってみると、中からは人間の髪の毛のような黒い繊維が絡まりつき、強烈な磯の香りと共に、微かな泣き声が漏れ出したという。

現在、「魚太郎」は廃墟となっている。しかし、満月の夜になると、廃墟の窓から温かい焼き菓子の香りが漂い、どこかから子供たちの笑い声が聞こえてくるそうだ。近づいてはいけない。その香りは、あなたを永遠の深海へ誘う罠なのだから。

たいやきくんは、今でも待っている。次の「友達」を。

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