すっきりリフォーム
投稿者:件の首 (54)
投資用に中古の一軒家を購入した。
とあるそれなりの地位のある画家が住んでいたというその家は、作りは悪くないものの、良い間取りとは言えなかった。
構造は保ったままでリフォームし、間取や導線を改善して貸す事にした。
図面を確認するうち、台所と風呂場の壁が、妙に分厚い事に気付いた。
作業を監視するような意味合もあって、私は古い壁の解体工事に立ち会う事にした。
部屋2つの壁が抜かれた後、台所の壁の番になった。
壊す前、壁を軽く叩いた作業員が、やや怪訝な顔をした。だがそれも束の間、彼はハンマーで壁を叩いた。
割れた壁の向こうから出て来たのは。
絵だった。
完成した油絵のキャンバスが13枚出て来た。
死体でも埋まっているんじゃないかという、チラチラと浮かんでいた不安は、無事に払拭された。
そんな事があれば事故物件だ。家賃をいくら値下げしなければならないか。
「これ……」
作業員が壊した壁の中から、それを拾い上げた。
骨だった。
人間の指らしき小さな骨が、キッチンペーパーのようなものに包まれて埋め込まれていた。
「……作業中に誰かが傷しただけだろ」
私は財布から1万円札を出し、作業員に握らせた。
「そうっすね!」
作業は続行された。
絵は保存状態が悪い上に絵柄も家主の画家の模倣ばかりで、値段は全く付かなかった。
家の借り手は4度ついたが、いずれも霊を見ただの何だのと言って退去してしまい、今は空き家だ。
他の部分の骨がまだ残っているのかも知れないが、そもそも霊などというものが非現実的だ。
例の作業員が事故に遭ってはいるが、骨を隠滅した事と結びつけるのは飛躍し過ぎだ。
それよりも、家賃収入がない事の方がずっと深刻だ。
だから。忘れよう。
今も耳元で聞こえる声の事なんて、忘れてしまえば良いのだ。
山際元大臣のように、きれいサッパリ忘れましょう。