カーナビと私
投稿者:件の首 (54)
夜、私は深い霧の山道を走っていた。
『100メートル先、左カーブです』
カーナビの声が、ラジオの合間に響く。
半ばぼんやりしていた意識を引き締め、ハンドルを切る。
『150メートル直進です』
視界の悪さの中、カーナビは有り難いが、鵜呑みにするつもりはない。
徐行しながら進んでいく。
そもそもこの道は、事故が多発している。
「向こう側に呼ばれる」
という噂も多い。
カーナビが存在しない道を進めと言ったとか、居ないはずの乗員を見たという話もある。
下らない事だ。
噂を頭に入れてしまうと、先入観から実在しないものが見えてしまう事があるのだ。
慎重に、安全に運転をする。
そのうちにようやく、眼下に街灯りが見え始めた。
霧は薄くなり、ライトも遠くに届くようになっていた。
良かった。
無事にやり過ごせた。
行く先に、道路沿いの展望台が見えて来る。
疲労感を覚え、車を駐車場に停め、外に出た。
伸びを1つ。
それから車の前を通って展望台に――。
「!」
車の前面に、赤いものがべったりと付着していた。
まさか人間を轢いた?
集中していた筈だ。
絶対に脱輪しないように。
道だけに集中して……。
あれ。
歩行者を気にしただろうか。
見落としただろうか。
どこかで、ぶつかった衝撃がなかったか。
今ならまだ、間に合うんじゃないか。
不安は膨らんでいく。
やっぱり無視出来ない。
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