女性の依頼は、布団はもちろん、寝室の中を徹底的にきれいにして欲しいということだった。
このままだと気持ち悪くて、寝室に入ることが出来ないという。
工藤と俺は言われた通り、寝室のあらゆるところを隅々まで清掃した。布団は一式特別なクリーニングに出した。
床にはそれこそ髪の毛一本さえも残らないくらいに、徹底的に掃除機をかけた。
そして、その日、仕事を終えて、車での帰り道。
誰もいないはずの後部座席に、裸の痩せた男が座っていたのだ。
俺は工藤の言葉を思い出した。
─おかしな死にかたをした連中は皆、寂しがり屋だ。同じような境遇の人間の波長を感じたら、近寄って来る。
─ということは、後ろのやつは、今の俺の波長に引かれて現れたのか?
なるほど、そうかもしれない。
確かに、今の俺は、やつらの世界のかなり近いところにいるのかもしれないな、、、
その夜、俺は以前から準備していた睡眠薬を一瓶全部空にして、布団の上に横になった。
暗い暗い深淵と意識との間を何度となく行き来しながら、どれだけ時間が過ぎただろうか。
俺は一瞬だけ正気を取り戻し、瞳を開いた。
ふと横を見ると、やけに肌の白い男が寝ている。
男は落ち窪んだ目でじっと俺の顔を見ながら、こう言った。
「安心して逝っていいよ。僕はいつもいるから」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やがて意識は冥界の沼に浸かり始めていた。
【了】
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フレンドリーガイ。
男の目的は侵入した部屋の女性では無く”俺さん”だった。
必要な仕事なのだが精神的にはイカれそうだ。
生活の目処が立ち始めたのに…