まずきちゃん
投稿者:youchi (13)
長女が4、5才の頃だったと思います。
おままごとの相手にぬいぐるみを並べて遊んでいましたが、ある時から架空のお友達も登場するようになりました。
「お母さん、まずきちゃんのおやつもちょうだい」
初めは〈あずきちゃん〉だと思っていたのですが、何度聞いても〈まずきちゃん〉だと言います。
子供の空想の世界のことなので、娘の言うとおりに、私もまずきちゃんがいるように振る舞っていました。
ある日、近所に住む母が来ていた時のことです。母に子供たちを見てもらっている間に夕飯の準備をしていると、次女の泣き声が聞こえました。
子供部屋へ行ってみると、次女の頬が赤くなっており、お姉ちゃんに叩かれたと言って泣いています。姉妹喧嘩は毎日のことなのですが、泣き方が尋常ではないので母に何があったか聞いてみると、次女がまずきちゃんのおやつを食べたと言って、長女がおもちゃで叩いたのだそうです。いくらなんでも行き過ぎていると思い、私は長女をきつく叱りました。
「だって、まずきちゃんが怒るんだもん..」
「まずきちゃんなんていないでしょ!」
子供の想像力を否定してはいけないと思いましたが、ここできちんと叱っておかないと、自分に都合の悪いことは全てまずきちゃんのせいにして、言い訳するようになるのは目に見えていました。
しかし、長女は続けます。
「まずきちゃん、お母さんいないんだって。いつもおなかすいててかわいそうなんだよ」
何かの絵本かテレビの影響なのでしょうか。どうしたものかと困っていると、母が突然大きな声で言いました。
「まずきちゃんのお家はここじゃないのよ!帰りなさい!もう二度と来ちゃダメ!」
「帰らないとおばあちゃん本当に怒るよ!」
母の剣幕に唖然としていると、
「塩、持ってきて!」
母は窓を全開にして、塩を撒きます。
「ほら、もうまずきちゃんはお家に帰ったよ」
しばらくして母は窓を閉めながらそう言いました。
後で母に聞いたのですが、長女がまずきちゃんに話しかけているとき、ふと見ると本当に子供同士が手を繋いでいるような格好をしていたそうです。そして次女を叩いたとき、長女が物凄い形相をしていたので母自身が怖くなってしまったそうです。
その後も長女は〈まずきちゃん〉を待っているようでしたが、また叱られると思ったのか、だんだんと口にすることはなくなりました。
「まずきちゃんが、Hちゃん(娘の名前)のお家で遊びたいけど、入れないって言ってるよ!」
そんなことを言って窓を開けて外を見ていることはありましたが、まずきちゃんが何だったのかはわかりません。
ちなみに、二児の母になった娘に〈まずきちゃん〉のことを覚えているか聞いてみましたが、全く記憶にないそうです。
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