警告

元同僚のTとは、かれこれ20年来の付き合いになりますが、家族ぐるみの交流もあり、良き夫、良き父親の姿しか見ていなかったので、この話を聞いた時は本当に驚きました。

彼が30代の頃、取引先の年上の既婚女性と不倫関係になり、軽い遊びの域を越えて、いつしか本気で付き合うようになってしまったそうです。
初めは月に数回会う程度だったのが、週に二度、三度と増えていき、最後には毎日数分でもいいから会いたいと思うようになり、自分にも家庭があり小さな子供がいることも忘れてのめり込んだそうです。

人目を忍んで町外れの寂れたホテルで逢瀬を重ねていたのですが、ある日ベッドの布団をめくると、白いシーツの上に長い髪の毛が束になり、グルグルと巻かれた状態で置いてあったそうです。
部屋の掃除は済んでいるのに、なぜ髪の毛の束が置いてあったのかは謎ですが、
気持ちが悪いので二度とそのホテルには行かなくなったそうです。

その頃から彼女の精神状態が不安定になることが多く、会うと必ず喧嘩になってしまったそうです。

Tはそれでも彼女と別れる気はさらさらなく、家庭を捨てて一緒になりたいとさえ思っていたそうです。

そんなある日、彼女と会えて楽しい気持ちで帰路につこうとしていたところ、急に彼女の機嫌が悪くなり、泣き出す始末。
彼女と路上で口論になったそうです。

「そんなに奥さんのところへ帰りたいの？」
「そんなはずないじゃないか。ずっと君と一緒にいたいよ…」

道の真ん中でそんなやり取りを続けていると、突然、バサッと頭上から何かが落ちてきたそうです。

…足元に落ちてきた物を見ると、髪の毛がぐちゃぐちゃに絡まった女性の髪留めだったそうです。

周囲を見渡しても街路樹が立ち並んでいるだけで、木の上から誰かが投げ落としたたとしか考えられません。もちろん、木の上に人がいるはずもなく、恐怖で暫く動けなかったそうです。

それからというもの、彼女は益々情緒不安定になり、仕事も休職して家に引きこもり、いつしか音信も途絶えて自然消滅してしまったそうです。

「..あれはね、もう不倫なんかやめろっていう警告だったんだと思う」

「警告を無視してあのまま付き合っていたら…」

でも、その警告は誰が？…

世の中には不思議な出来事が多々あるものです。