化粧する女
投稿者:youchi (13)
両親は新婚時代、父の仕事場の近くに部屋を借りて住んでいたそうなのですが、そこで母はたびたび同じ夢を見たそうです。
夢を見るのは決まって昼間で、昼食後などににちょっと横になった時だったそうです。
狭い部屋の中、自分の鏡台の前で誰かが長い髪の毛をとかしたり、口紅をひいている…ただそれだけなのですが、妙に生々しく、その女が着ている着物の柄まではっきりわかるのだそうです。あまりに頻繁に同じ夢を見るようになり、気持ちが悪いので、母はどんなに眠くても昼間横になるのをやめたそうです。
しかし、しばらくして姉を妊娠した母は倦怠感がひどく、父が出勤した後にこたつで寝てしまったそうです。
また同じ夢です。
しかし、いつも後ろ姿だった髪の長い女が横を向いています。
〈…誰?…〉
母は声を出そうとしますが、夢の中では口をパクパクさせるだけで全く声が出ません。
その時、口紅をひきながら女が振り返り、母と目が合ったそうです。
母は恐怖で飛び起きたのですが、もちろん夢の中の話で部屋には誰もいません。
しかし、振り返った女の顔が脳裏に焼き付いて離れず、怖くて一人で部屋に居ることができなくなって、その日は父が帰宅する時間まで外出したそうです。
父はそういう話を信じる人ではないので、いくらその話をしても全く取り合ってもらえず、引っ越したいと言っても「夢の中の話で引っ越しなんて」と、聞き入れてもらえなかったそうです。
そうこうしているうちにお腹はどんとん大きくなり、妊娠7ヶ月目に入った頃..
その部屋にはお風呂がなく、銭湯に通っていたのですが、その日も銭湯へ行くと、いつも同じ時間に会う年配の女性に声を掛けられたそうです。
「あなた、大丈夫?」
母は妊娠中なのでそう声を掛けられたのだと思い、
「はい、大丈夫です」
と答えたそうなのですが、
「毎日あなたのこと見かけるけど、日に日に顔色が悪くなってるし、こんなに痩せちゃって..どこか体の具合が悪いんじゃないかと思って。お腹の赤ちゃんのためにちゃんと食べなくちゃだめよ」
心配そうに母の体を見ながらそう言ったそうです。
母は、
〈私はいたって元気だし、食事もちゃんとしている。そんなに痩せてるわけないのに…〉
そう思いながらふと鏡を見ると、自分の顔に愕然としたそうです。
頬はこけ、目の下には青黒くくまができています。妊娠中でお腹はぽこんと出ているのに、手足はガリガリに痩せ、まるで栄養失調の子供のようです…
妊娠しているとは言え、こんなに痩せてしまうなんて、どこか体に悪いところがあるのだろうか?
母は次の検診を待たずに、産科へ行ったそうです。
診察を受けましたが、自分もお腹の子供も特に悪いところはなく、悪阻が長引いて栄養状態が悪くなったのでは、と言われたそうです。
妊娠8ヶ月に入ってすぐ、母は早産で姉を出産しました。昭和30年代のこと、未熟児をケアできる病院が少なく、母は産院を退院して実家へ帰り、姉は日赤病院に入院したそうです。
必然的に父が一人であの部屋で生活することになったのですが、一月もたたないうちに部屋を引き払って、母の実家へ越してきました。
父もあの部屋で何かを見たのだと母は言っていましたが、父に聞いても決して教えてくれなかったそうです。
あのままあの部屋で暮らしていたら..
母は早産で生まれた姉に助けられたのではないかと言っていました。
最後の文章でびっくり。最近まで11年、住んでました。鈴ヶ森刑場跡が近かったけど、私は特に何も体験せずでした。
たびたびすみません。銭湯のコメント忘れてました。大森駅と大森海岸駅の間くらいに、いっこ銭湯があって、たまに利用してましたが(昭和27年から営業してるそう。同じ銭湯かな)大森は浮浪者が多かったから、京急の線路下に住んだりしてる人たちの方が、私は怖かったです。