現在住んでいる家に越した時、私は40歳になったばかりで、会社では中間管理職として多忙を極めていました。
毎日残業して深夜に帰宅し、それから引っ越しの荷物を片付けて朝方に寝る。数時間の仮眠で起床し、主人と子供たちのお弁当や朝食の準備をしてまた出勤する…そんな生活を二週間ほど続けているうちに、心身共に疲弊してしまいました。
その日も会社でトラブルが発生し、ヘトヘトになって帰宅しました。食事をする気力もなく、シャワーを浴びて横になると、いつの間にか泥のように眠ってしまいました。
嫌な夢をみました。
大好きだった祖母が、夕陽が射してセピアカラーに染まった部屋に居て、私は泣きながら会いたかったと駆け寄ります。
祖母の顔は逆光で見えないのですが、
シルエットは懐かしい祖母の姿そのままです。
「あんたを連れて帰らないと私が叱られる」
しかし、突如祖母が発したその声は、祖母のものではなく、地の底から沸き上がるような恐ろしい声でした。
〈おばあちゃんじゃない…〉
怖くなった私は部屋を出ようとしますが、動けません。
と、窓の外を見ると日はどっぷりと暮れ、何故かスポットライトが当たったような明るい部分に、会社の同僚が数人、立ち話をしているのが見えました。
「Sさん!」
私は一番近くにいた同僚の名前を呼びました。彼は一瞬こちらを向きましたが、私には気づいていないようです。
「Sさん、助けて!」
もう一度叫ぶと、祖母のシルエットをした何者かがグルグルと回り始めました。
そしてこちらに近づいてきます。
〈連れていかれる!〉
そう思った瞬間、目が覚めました。
〈夢だったんだ…〉
夢だったことに安堵したものの、恐怖で体は固まっています。私はそのまま、まんじりともせず朝を迎えました。
寝不足のまま会社へ行くと、その日もトラブルの処理やクレーム対応が山積していました。夕方になってやっと休憩室で一息ついていると、同僚が声を掛けてきました。今朝の寝覚めの悪い夢に出てきたSさんです。
いつも特に話をするわけでもないSさんが、何で夢に出てきたんだろう…
そう思っているとSさんが話し始めました。
「本当に不思議なんだけど、ゆうべ夢でMさん(私の名前)に呼ばれたような気がして目が覚めたんだよね。そのあと、めっちゃ怖い夢見てさ。内容は忘れちゃったんだけど、黒い服を着た殺人鬼みたいな奴が鎌を振り回してたのだけははっきり覚えてるんだ…このところ忙しかったから..疲れてるのかな。」
Sさんは笑っていましたが、私は凍りつきました。
〈…死神〉
〈私を連れていこうとしていたのは死神だったんだ…〉
その夢を見たのは、後にも先にもその時だけでしたが、祖母の姿現れたあのシルエットと、地の底から沸き上がるような恐ろしい声は、何年もたった今でも鮮明に覚えています。
どんだけブラックぅ〜
お疲れさまです
グルグルと回りながらこちらに近づいてくるお婆ちゃんを想像してちょっとフフッてなってしまいました。