カワワラシ
投稿者:信綱 (1)
じいちゃんが言うには、俺が行きあった裸の女の子は「カワワラシ」という、山の川に棲む化物の一種なのだそうだ。
川の童子、つまり「川童」と書いて「カワワラシ」と読むらしく、他にも「カワワロ」「カワノコ」「カワゴ」と呼ぶ人もいるそうだ。
とはいっても有名な「河童(カッパ)」とは完全に別物で、この辺りにしかいない土着の妖怪なんだとか。
その違いもよく分からないが、じいちゃんの説明だと河童はほぼ人間、かなり人間に近い存在なんだそうだが、カワワラシは限りなく動物に近いもので、だからこそ人間の言葉や思考を持たないのだという。
河童はもとは人間だったものが、川に入って自然に馴染むようになり姿を獣に転じたもの。カワワラシはもとはカモシカやサルなどといったただの獣だが、人間の営みの影響を受けて姿を人に転じたもの。
だと簡単に説明してくれたが、その辺りのことはじいちゃんもあまりよく分かっていないのか、曖昧な感じだった。
カワワラシの存在自体を知っている人も今では少ないそうだが、じいちゃんの世代(大正より前の生まれ)で、この辺りに古くから住む人は誰もが知っているのだそう。
かく言うじいちゃんも、大人になってからは一度も見たことはないが、子供の頃はたまにカワワラシらしきものを見かけたことがあるのだという。
現れるのは決まって暑い夏場で、場所は山奥に流れる川。
肌が妙に白かったり、歯がすべて尖っていたり、足の指が異様に長かったりなどの細かい特徴があるが、おおまかな外見は人間の子供そのもの。
人間と同じように男女の別があって、顔つきも体つきもそれぞれ違う。
共通しているのは臆病な性質で、猟師などの武装している大人の前には絶対に現れないが、丸腰の人間、特に非力な子供の前には平気で出てくる。
水浴びをしているカワワラシたちにふざけて石を投げつけて、怒ったカワワラシたちと石合戦になった友達がいると、じいちゃんは面白おかしく話してくれた。
知っている限りのことを話してくれたじいちゃんは、最後に
「行きあったのが、おとなしい女のワラシで良かったなあ。本当に」と俺にポツリと言った。
「ワラシはだいたい乱暴モンなんだよ。特に男はな。人間を生きたまま皮を剥がしたり、目ん玉ほじくって遊ぶやつだっていたんだ」
それを聞いて思わず「怖っ」と漏らしてしまった。
確かに俺が会った女の子のカワワラシは人間的な感じはせず、野生児みたいな原始的な振る舞いをしていたが、そこまで凶暴そうな雰囲気ではなかった。
けど、もしかしたらサワガニを弄って遊んでいたように、俺のことも面白半分で弄んでるだけで、遊びに飽きたらそれこそサワガニみたいにパクっと食うつもりだったのかもしれない。
そう考えると、嫌な汗がタラーっと流れた。
その日はとんでもない体験をしたが、朝から早起きをして山に登り釣りをしていたこともあって、うなされるようなこともなくグッスリ眠りについた。
しかし次の日の早朝、俺はじいちゃんに叩き起こされた。
時間は朝の5時半頃。
朝日が昇り、辺りはようやく明るくなってきたくらいの時だった。
なんだよこんな早くからと思いながら目をこすり、妙に険しい表情のじいちゃんに引っ張られながら玄関まで行った。
「お前、これ見てみろ」
そう言ってじいちゃんは玄関の扉をガララと開けた。
その瞬間、玄関先に広がる光景を見て俺の目は覚めた。
サワガニが入った虫取りカゴ、クーラーボックス、釣り竿。
間違いなく俺のだ。
昨日、山に置いてきたはずの道具が、なぜか玄関のすぐ前に置かれていたのだ。
めちゃ面白かったです
奥多摩あたりは神秘的で本当に何かありそうな場所ですよね
ワラシちゃん可愛い
蹴り入れられたのに気に入られるのか…Mっ気があるのかな
おじいちゃんが山で作業中に急死ということは・・・。