「オレもさっき気づいたんだ。外からガサゴソ聞こえるから猪でも来たんかと思ったんだが、見てみたらこれが置いてあった」
じいちゃんはそう言うと、「それに、これ」とクーラーボックスを開けた。
促されるままに中を覗いてみると、ヤマメ、マス、イワナなど、山の川で捕れる魚がぎっしりと詰まっていた。
昨日自分が釣ったものではない。鮮度がかなりよく、どれもこれも今朝釣ったばかりの魚のように思えた。
そればかりでなく、虫取りカゴのサワガニを見てみると、まだモゾモゾと活発に動いているのが分かった。
明らかに、ついさっき用意されたようなもの。
誰が、こんなことを。そう言おうとしたが、俺は薄々勘づいていた。
「お前、昨日のワラシに相当気に入られたんだな。こんなことは初めてたぞ」
「・・・・・・」
「ワラシはお礼なんてしない。どういう考えか知らねえが、多分お前はそのワラシに好かれてる」
俺はなにも言えなかった。
結局、その魚とサワガニはじいちゃんが入れ物ごと川に流した。
こっちはお前なんかに興味はないぞ。という意思表示をするためらしい。
やることをやったじいちゃんは、あの山に近づくのはやめろと強い口調で言った。
カワワラシは人間じゃない。もし次あったら何をされるのかは分かったもんじゃない、と。
それ以来、俺はちゃんとじいちゃんの言いつけを守り、その山に近づくことは二度となかった。
他の子供たちに誘われても、外で遊ぶことすら避けるようになった。
この出来事の数ヶ月後、じいちゃんが山で作業中に急死してからは、東京に行く機会すらなくなった。
何十年もの月日が経過した今、あのカワワラシがどうなっているのかは分からない。
もうどこかへ消えて去っていったのだろうか。
もしかしたら、ということも・・・
めちゃ面白かったです
奥多摩あたりは神秘的で本当に何かありそうな場所ですよね
ワラシちゃん可愛い
蹴り入れられたのに気に入られるのか…Mっ気があるのかな
おじいちゃんが山で作業中に急死ということは・・・。