カワワラシ
投稿者:信綱 (1)
「みゃあ」「みゃあん」「みゃー」
決して動物なんかじゃない。
得体の知れない辺り一面に響く不気味な声が、女の子と同じなにかのものだと直感した。
パキパキ。ガサガサ。
枝を折るような音や、草むらをかき分けるような音がした。
たくさんのなにかが、こっちに近づいてくる気配がした。
逃げないとやばい!
そう考えた俺は、掴まれてない方の足で、咄嗟に女の子の体を思いっ切り蹴り上げた。
小さい体からは考えられないほどズシッと重く、まるで岩を蹴ったかのような硬い感触がした。
女の子はびっくりしたのか、足首を掴む力が少しだけ弱まった。
俺はその一瞬の隙を突いて、女の子の手を振りほどき、そのまま一目散に山の麓へ向かって駆け出した。
サワガニが入った虫取りカゴ、魚が入った重いクーラーボックス、それに釣り竿は勢いのままに放り投げてしまった。
当時の自分にとっては何よりも大事な道具だったが、そんなことを考える余裕はなかった。
俺はとにかく必死で走った。
体力はもう限界に近かったが、脇目も振らずに、とにかく無我夢中で山道を駆けた。
しばらく走って、ようやく山の麓まで着いた。
そこは麓にある、大きな畑だった。
普段なら来ることはない場所だったが、とにかく夢中で走ったから道を間違えたんだろう。
ふと見ると、畑仕事をしているお婆さんが居た。
必死の形相で走ってきた俺を訝しんでるようだった。
俺はそのお婆さんを見てホッとして、途端にへたりこんでしまった。
後ろを振り返って見ても、特に女の子が追ってきてる様子はなかった。
俺の持ち物は、背中に背負ってるリュックだけになってしまった。
熱と疲れを体に帯びたまま、俺は大人しくトボトボと家へ帰った。
家へ帰る道も、もしかしたらあの子がついてきてるんじゃないかと、怖くて怖くてたまらなかった。
その晩の夕食を食べ終わると、俺はその日あったことを全てじいちゃんに話した。
じいちゃんは最初は嘘だと思って話半分に聞いていたようだったが、「川に裸んぼの子供」「肌が変なくらい白い」「サワガニをそのまま食べる」「猫みたいな声」と聞くと、なにか心当たりがあるのか、途端に真剣な表情で俺の話を聞きはじめた。
一連のことを話し終えると、じいちゃんは俺の頭を撫でて、
「なにも怪我がなくてよかったなあ」
と安心したように一息ついた。
めちゃ面白かったです
奥多摩あたりは神秘的で本当に何かありそうな場所ですよね
ワラシちゃん可愛い
蹴り入れられたのに気に入られるのか…Mっ気があるのかな
おじいちゃんが山で作業中に急死ということは・・・。