山の祠
投稿者:煙巻 (8)
何があっても対処できるようにと俺は充血をお構いなしに祠の成り行きを凝視する。
がしっ。
白くやせ細り筋張った様な手が祠の縁を掴むようにして出て来た。
(手?人間みたいだけど猿とかか?)
そんな事を思っていると、もう一本の手が暗闇から延びて来て、今度は床の縁を掴む。
ヌーっとぬめぬめした様な印象を受けるその腕は、更に祠から地面へと延びていくが、どうにも長さが尋常ではない。
腕の長さだけで既に祠の全長を超えていて、俺は本能的に震え上がった。
そして、俺が獣道に足を踏み入れた瞬間、遂に祠からそいつが顔を出す。
長い黒髪を髭の様に垂らした逆さまの顔が日の光を浴びると、鳥の様にカクッと一瞬で俺に顔を向けた。
真っ白な血色肌で笑っている事だけが認識できるそいつは、大きく口を開けて『オオオオオオオオオオオ』と低音楽器の様な声を出した。
「うわあああああ」
対して俺は絶叫。
絶叫しながら獣道に振り返って狭い道を全力疾走で駆け下りる。
途中何度か転んだが、すぐに起き上がって前だけを見て走る。
時折、ガサガサガサガサと凄まじい勢いで草木を掻き分ける様な音があちらこちらから聞こえてきた。
そして、四方八方から『オオオオオオ』と少し悲しさを帯びた慟哭が聞こえてくる。
ガサガサガサガサ!
『オオオオオオ』
絶え間なく後方から聞こえてくる奇声が俺の焦燥感を掻き立てるが、俺は決して振り返る事無く口を「ム」の様に固く閉じて只管に下山する事だけを考えた。
そうして見えてきたのが生い茂った草木の天蓋の先に差す明かり。
ご先祖様達が眠る墓所に飛び出ると、俺は盛大に転げて大の字に寝転んだ。
動悸と息切れが忙しない中、俺は上体だけを起こして獣道へと振り返る。
俺の激しい息遣いが煩い中、じっと獣道周辺の山々を見渡すが、どうやらあいつは追いかけて来ていないようだと安堵する。
息を整えた俺は、一先ず墓所で墓と目があったという気まずさもあり、何となく手を合わせておくことにした。
土台には上がらず、その場で墓前に向けて拝んでいると、俺は墓前の奥、雑木林の中に白い何かがある事に気づき目がそっちに泳いだ。
『オオオオオ…オオ…』
それは祠から出てきたあの生き物で、木々の合間から逆さまになった顔を俺に向けていた。
そして、その顔が繋がった胴体がまるで蜘蛛の様に横這いになり、手足が直角に折れ曲がっている事に気付いた。
どう見ても自然動物の類ではなく、そればかりか逆さまと言う点を除けば顔と四肢だけは人間に瓜二つだという全貌を見て戦慄する。
俺と目が合ったそいつは再び満面の笑みを浮かべると、ガサリ、ガサリ、と歩を進めるように動き始める。
こういう王道なの待ってたよ
なんだかんだ
「お前、あそこ行ったんか!」みたいなのってベタかもしれないけど面白い
八尺様的な
そんなに危険なら始めに教えておけよ
あるあるだね
なんかSCPのシャイガイ想像した
この手の話は危険なのに、何故か何も教えずに、
近づくなとか、余計な事は知らなくてもいいとかしか言わんよな。
結果、好奇心から悪い結果になるパターン。
とても良かったです!他の方も、先に教えておけば…と書かれていましたが、逆に教えてしまうとそれこそ好奇心だったり、確かめに行きたい!と思って行ってしまう人のほうが多いのでは?大人だからこそ話半分で聞けることも、子供にとってはそうじゃないでしょうから。
古き良き『〇〇、あそこにいったんか!!』が聞けてよかった