事故物件に住んでた時の話リターンズ
投稿者:ジョンガリ (8)
トンネルから出ると、やはりあまり人が足を踏み入れた様子は感じられないほど木々や雑草が鬱蒼と生い茂っていて、目の前に続く道も、最早道というよりは轍であった。ただ、西日を肌に感じられたことにより俺たちは若干の心の余裕を持てた。
ただ、想像力が欠如していた俺たちはトンネルから出るとすぐに井戸があると思い込んでいたため、こんな猪とか狸が通るような道を通ることに心霊とはまた別の恐怖を感じていた。
しかし、俺たちはこのすぐ後、これまでの恐怖は恐怖でもなんでもないという事を思い知らされる事になる。
俺たちは轍を怯えた小動物の様に通っていると、少し開けた場所に出たのだがそこには砂利が敷き詰められていた。
こんな未開の地のような場所で、人工的な白い石や灰色っぽい石が地面に満ちているという事実に全身が総毛立つ思いがした。
正直、思い出して文字を打っているの今でさえ鳥肌を禁じ得ない。
後輩ふたりが、「ここマジでヤバイッスよ…」とおおよそ日本男児とは思えない様な事を抜かし始めたが、俺は後輩想いの先輩であるため、寛大な心を持って戦略的撤退を決断したのだが、運が悪いことに、俺には実は砂利のすぐ先に小さく井戸がポツンとあるのが見えてしまっていた。
一応、ジャミとゴンズの二人にも井戸の事を告げると、ゴールまで来て引き返すのも…という空気になり俺たちはとりあえず井戸に近づくだけ近づこうという話になった。
ザリ、ザリと砂利を踏んで俺たちは近づく。
井戸を照らすと、まぁ簡素なものでとりあえず人が入れるような大きさでは無かったのでお化け屋敷とかでよくある、中から人が飛び出すという心配は無かった。
しかもボロボロの板きれみたいなもので蓋がされていたためその安心感もあったのだろう、俺たちはおおよそ2m付近まで井戸に近づいた。
しかしボロボロの板きれにはそこそこ切れ込みの様な穴が空いていて、これ以上近づくと中が見えてしまう恐れがあったため俺たちは2m以上近づけず、三人で横一文字に並び暫し沈黙していたのだが沈黙がまずかった。
風や木々のなびく音の中にザリ、ザリと砂利を踏むような音が聞こえた。
嘘だろと俺は思った。左右を向いて後輩二人の顔を見ると血の気が引いた顔をしていた。
左右は向けたが後ろを向く勇気は俺には無かった。
ザリ、ザリという音はもう鮮明に聞こえていた。
よくよく聞いてみると、どうやら近づいてくるというよりは円に近いような動きで、なにかを探っているかのような印象を受けた。
そして何よりも不味いことに、帰るためにはどうしても振り返らなければならないのだが、北海道の後輩は「なまらヤバい…」を繰り返すだけ、もう一人の後輩も「ヤバいヤバいヤバい…」と繰り返す壊れたてのRADIO状態であったため必然的に俺が振り返るしか無かった。
俺は無い勇気をそれでも振り絞り、意を決して振り返ったが、幸運にも目の前に幽霊はいなかった。
俺が振り返ったのを見て後輩二人も振り返り、心底安堵した表情をしていた。
が、それも束の間、目の前には誰もいない筈なのにザリ、ザリという足音は止まなかった。
正直、もう限界であった。
俺たちは”何か”が歩いているであろう場所におおよその目安を付け、示し会わせたでも無しにその場所を迂回する様に、蜘蛛の子を散らすかの如く走って砂利道を抜け、轍を駆け、トンネルを走破した。
まるで小学校の運動会のリレーのアンカーの様に手に持っていた懐中電灯をバトンと見間違うほど真剣に走り、車に乗り込んだ。
急いでエンジンをかけ、来た道を戻り、そしてようやく人工的な街並みの光を見たとき俺たちは本当にこの上なく心から安堵し、何故か三人で爆笑していたのだが、俺はもう二度と心霊スポットになど行くものかと固く心に誓った。
俺たちはその足でラーメン屋に寄り夕食を食べた後、24時間営業の銭湯に行きそこで汗と汚れを流し、ビールを飲んだ。
人もそこそこいたため、ある程度安心はしていたのだがやはりここには居たくないという思いもあり、朝になったら観光もせず早々に東京に戻ったのだった。
それから数日後、俺は東京に帰ってからは再びバイトに忙殺される毎日を送っていた。
バイト終わりに沖縄料理屋にて例の後輩たちと合流して三人で泡盛を飲み、俺の家でオトーリをするという流れになったのだが、ここで東京出身の後輩が変なことを言い出したのだった。
実は帰った後、その後輩は彼女にビデオ通話でこの心霊スポットに行った体験をまるで英雄譚の様に語ろうとしたらしいのだが、早々に彼女に通話を切られてしまったということで、不思議に思った後輩が、後に彼女に聞いてみたところ、
面白かった!
うーん、大学時代を思い出す
自分も怖いことあっても友達と飲んだらなんか眠れるみたいなことよくあったなぁ