空のベッド
投稿者:kanze666 (10)
でもオムツはもう限界だろう。行かなければならない。
「ドアを開けっぱなしにして、ちょっと待っててください」
呼吸を整えたM君は中へ入り、四隅に塩を置き、手刀を振って何か唱えていた。
その間もカーテンからは極力目を反らしている。
いつものチャラけた感じはなく、荘厳さすら感じて「拝み屋の家系ってマジだったんだな」と思えた。
合図と共に私も中へ入り、超高速でオムツ交換をして詰所へ戻った。
昇る朝日に徐々に明るくなる窓の外。
これ程夜明けを有難く感じた事はない。
長い沈黙の後、私は我慢出来ずに聞いてしまった。
「窓の外、何か居たの?」
M君は、濡れた前髪をうっとうしそうによけて、いつもガラの悪そうな目で私を見た。
「聞きたいですか」
聞かない方がいい。
聞かない方がいい。
でも知りたい。
引きつった顔で頷く。
「カーテンと窓の間に全員居たんですよ。4人…3番ベッドで亡くなった人達が」
虚ろな顔で座っていたと。
最初に亡くなった人がその死を受け入れられず、引きずり込むのはよくあるそうだ。
最初…Yさんだ。
前日まで元気だったのに、翌日ナースコールも押さないまま亡くなっていた。
その後、お祓いが効いたのか103号室の邪気は消えていた。
3番ベッドの患者も亡くなる事はなかった。
少し経ってから、M君に謝られた。
「自分と居ると、霊感移るんですよね。怖い思いさせてすみません」
怖かった。
そして定期的に金縛りに遭うようになってしまった。
あまり霊感の強い人には近づかない方がいい。
昔の鈍感な自分に戻りたい。
その後私もM君も、施設を辞めました。
霊感伝染るってよく聞くけど、コロナより伝染りたくない。