でもオムツはもう限界だろう。行かなければならない。
「ドアを開けっぱなしにして、ちょっと待っててください」
呼吸を整えたM君は中へ入り、四隅に塩を置き、手刀を振って何か唱えていた。
その間もカーテンからは極力目を反らしている。
いつものチャラけた感じはなく、荘厳さすら感じて「拝み屋の家系ってマジだったんだな」と思えた。
合図と共に私も中へ入り、超高速でオムツ交換をして詰所へ戻った。
昇る朝日に徐々に明るくなる窓の外。
これ程夜明けを有難く感じた事はない。
長い沈黙の後、私は我慢出来ずに聞いてしまった。
「窓の外、何か居たの?」
M君は、濡れた前髪をうっとうしそうによけて、いつもガラの悪そうな目で私を見た。
「聞きたいですか」
聞かない方がいい。
聞かない方がいい。
でも知りたい。
引きつった顔で頷く。
「カーテンと窓の間に全員居たんですよ。4人…3番ベッドで亡くなった人達が」
虚ろな顔で座っていたと。
最初に亡くなった人がその死を受け入れられず、引きずり込むのはよくあるそうだ。
最初…Yさんだ。
前日まで元気だったのに、翌日ナースコールも押さないまま亡くなっていた。
その後、お祓いが効いたのか103号室の邪気は消えていた。
3番ベッドの患者も亡くなる事はなかった。
少し経ってから、M君に謝られた。
「自分と居ると、霊感移るんですよね。怖い思いさせてすみません」
怖かった。
そして定期的に金縛りに遭うようになってしまった。
あまり霊感の強い人には近づかない方がいい。
昔の鈍感な自分に戻りたい。
その後私もM君も、施設を辞めました。
霊感伝染るってよく聞くけど、コロナより伝染りたくない。