空のベッド
投稿者:kanze666 (10)
先の103号室から、何かが漏れている。
目には見えない。だが近づいてはいけない何かを感じるのだ。
本能の警告に従えばいいのに、私はドアのガラス窓を見た。
いつもは透明なはず。
黒い髪の毛のようなもやが下から広がり…。
「Bさん!逃げるぞ!!」
M君の掛け声で我に返り、転がるように詰所へ帰った。
103号室…4人部屋。二週間前3番のベッドで患者が亡くなった。
4人目だ。ここ数カ月で立て続けに、3番のベッドで患者が亡くなっている。
いずれも弱ったお年寄りだったとはいえ…。
あまりに続くので、そのベッドは空にしてある。
「Bさん、塩持ってない?」
M君は真っ青になりながら聞く。私の顔も似たもんだろう。
「持ってるわけないでしょう」
詰所の明かりに安堵しながらも、先程感じた悪寒のせいで腕は鳥肌がびっしりだ。
調理場から塩を拝借して、M君にお祓いして貰った。
「M君、あれ何?」
「聞かない方がいいっすよ。オムツ交換は明け方行きましょう」
そう、老人しか居ない部屋だから行かないわけにいかない。
4時──再び103号室へ。
深夜よりはあの禍々しい気配は薄れている。
「入りましょう」
入った途端後悔した。
鳥肌が全身に立つ。
居る。明らかに何かいる。
ふいに、M君が奥へ走り長いカーテンを開ける。
薄紫の夜明けの空…
「あっ!!」
M君がしまったというように叫び、私をラリアットするように部屋から引きずりだした。
「どうしたの!?」
「すみません、カーテン開けなきゃよかった…」
何か見た。
直感的にそう思った。
霊感伝染るってよく聞くけど、コロナより伝染りたくない。