それで、2人はそーっと立ち上がったんだけど、その時、ウネリ様が墓に頭を突っ込んで頭をぶんぶんと勢いよく左右に振り出した。
土葬なので埋葬されたところは土が少し盛り上がっていて、そこに頭を突っ込んで左右に振っているから、みるみるうちに土が避けられていく。
そしてとうとうA男の祖父の遺体が見えるくらいまで土はどかされ、するとA男の祖父の遺体にウネリ様がかじりついてしまった。
「あ!」
A男が思わずといったように声を上げると、ウネリ様がA男の祖父の遺体を咥えたまま、こっちに顔を向けた。
その時、祖父はA男の背中で隠れていて見えなかったけれど、A男には見えてしまったらしい。
A男は「目が、目が合った…目が…」とうなされるように何度も同じことを呟いて、そして気絶してしまった。
ウネリ様は興味を失くしたかのように、A男の祖父の遺体を咥えたまま、また頭を左右に振っている。
祖父は気絶したA男を担いで何とかA男の家まで戻った。
A男の家族は起きていて、祖父の話しを聞いて「ああ、見てしまったのか…」落胆したように言う。
それから、「この子(A男)はもうダメだろうな。ちゃんと説明してなかった私らの責任だ。どうにもならん。お前(祖父)は見てないんだろ?さっきのことは忘れて、A男のことも忘れてしまえ」と言って、祖父を家からそっと追い出した。
祖父はとぼとぼと家に帰り、起きていた祖母に話すと、A男の家族があんなことを言った理由をそこで初めて知った。
祖母「ウネリ様はな、まぁ良いものかどうかといったら、そうではないと思う。ずーっと昔からあの山にいて、ずーっと昔からああして遺体に何やらしてる」
祖母「坊さんも代々あの寺にいるけれど、詳しいことは伝わってないらしい。いつもは何もしないから、放っておけばいいってさ。放っておけば祟ることはないから」
祖母「でもな、ウネリ様の目を見てしまうとあかん。あの目は邪眼と言って良くないものだから、目が合ったら気が触れてしまうんだわ」
祖母「お前は無事だったけど、A男はあかんかったかぁ。あの子はもう、気を取り戻すことはないと思う。誰のせいでもないから、A男のことはもう忘れてしまい」
祖父は、A男の家族にも、村の誰にも、責められることはなかった。
ウネリ様はそれからも村の誰かが亡くなる度に出てきたけれど、祖父はもう墓に行ってウネリ様を見ることもしなかった。
そして、その村を出るまで、村の小さい子達には「ウネリ様に近づくな、絶対に目を合わせるな」と注意し続けた。
祖父は今でもA男のことを後悔しているようで、私は何も言えなかった。
今でも祖父の故郷には、ウネリ様が現れるのだろうか。
ウネリ様は、神なのだろうか、それとも妖怪なのだろうか。
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