猿のようで猿でなく、猪のようで猪でないケダモノ
投稿者:上龍 (34)
短編
2022/03/23
20:03
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これは父方の祖父が住んでいた九州の田舎で体験した出来事です。
当時私は小学3年生、やんちゃ盛りでした。
夏休みに祖父の家に泊まりにくるたび全身真っ黒に日焼けするまで村中駆け回り、色々なイタズラをしていました。
そんなある日、あらかた探検に飽きた私は次の目的地を裏山に定めました。この裏山は子供が入るのを固く禁じられており、以前から何があるのか気になっていたのです。頑固な祖父に聞いても絶対教えてくれず、好奇心が無限大に膨れ上がりました。
「よし」
祖父の目を盗んでこっそり抜け出し、山を登っている途中でだしぬけに日が翳ってきました。蝉の声は途切れ、重苦しい静寂が押し被さってきます。
空気の変化に動揺した矢先、奇妙な雄叫びがあたり一面に響き渡りました。
「うわっ!?」
それは猿のようで猿でなく、猪のようで猪でないケダモノの咆哮でした。次の瞬間行く手を過ぎった毛むくじゃらの影は、爛々と光り輝く赤い目をしていました。
「ばけものだあっ!」
すっかり肝を潰して逃げ帰った私は、祖父や両親にこってり絞られました。
一体アレは何だったのか。
十数年後、大人になった私は裏山に伝わる人食い狒狒の伝説を聞いてケダモノの正体が腑に落ちたのでした。
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