まとわりつく髪の長い女

そんな彼の反応に私は不思議でした。

まるで見たくはないかのように必死で目を瞑って、「それをゴミに出してくれ」と叫ぶ彼はちょっと異常とも思えました。

明らかに私の見せた髪の毛に怯えているようでした。

浮気がバレそうになって動揺するというよりは、むしろ恐ろしいものを見て真っ青になって愕然とするような表情だったのです。

「あの髪の毛は何なの？」と私は聞きました。

彼はずっと震え上がっていて、その日はまともにしゃべれる感じではなかったです。

彼と暮らし始めて、私は彼にすごく束縛されるようになりました。

束縛というか家にいるときは常に私と一緒に行動したがり、そして一人を異様に嫌がります。

家の中にいても、いつも物音にびくびくしている彼にちょっと危ない薬を疑ったこともあります。

麻薬かなにかをしているんじゃないかと思うくらいに彼の行動は不審でした。

そしてあれから毎日家の中でなぜか長い髪の毛を見つけるのです。

廊下に、トイレに、玄関に、時折ベッドの上に落ちていることもありました。

私はこれが気持ち悪くてしょうがなかったです。

なぜ私と彼しか住んでいないはずの部屋の中に、これだけの長い髪が見つかるのか不気味でならなかったです。

ある日、私が彼とテレビを見ながら話していると、突然背後の机の上にあったコップが倒れて割れたことがあります。

私も彼も突然の音にびっくりして「わあ」と大きな声を上げました。

私もドキリとしましたが、何かのはずみでコップが落ちたんだろうと大して気にしませんでした。

しかしコップを片付けている途中で、テレビを見ている彼の隣に誰かいるように見えました。

私の見間違いかもしれません。

ただ一瞬長い髪の女性が私が座っていたソファの場所に座って彼に寄り添っているように見えました。

まとわりつく髪の毛が見えた気がして、私は一瞬ぎくっとしましたね。

でも目を擦ってみたら、何もいなかったのです。

だから私は自分が仕事で疲れていて、変なものが見えただけだと言い聞かせました。

そして彼に近づいていって、「ねぇねぇ」と肩に手を置きました。

そしてふと気づいたのです。

彼の肩に無数の長い髪の毛がまとわりついていることに。

私はゾッとして思わず手で髪の毛を払いのけてしまいました。

私以上に驚いたのは彼です。

突然長い髪の毛がぼたぼたと落ちてきて、驚いたのでしょう。

まるで悲鳴のような声を上げました。