手招く手の群れ
投稿者:くやり (24)
短編
2022/03/01
16:52
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数年前に旅行した際の出来事です。
二泊三日の一人旅の締めくくりに訪れたのは自殺の名所として知られる断崖でした。
その日はよく晴れており風が強く、周囲には珍しく観光客がいませんでした。
観光名所となっているだけあり崖から見渡す海と島々は絶景です。
夢中でシャッターを切っている最中ふと呻き声を聞いた気がして視線を下ろしました。
すると遥か遠くの海面に白くてふわふわしたものが浮いています。
なんだろうと目を凝らしぎょっとしました。海面から手招きしているのは無数の腕でした。
自殺者の亡霊が呼んでいる!
ぞっとして身を引いた直後、スニーカーの靴紐がブチンと音をたてて切れました。
「えっ!?」
驚きに声を上げる私をよそに、海面に群がった腕だけの亡者たちは手招きしています。
「おお~い」
「おお~い……」
潮風に吹きちぎられた呻き声が届いかと思いきや、反対のスニーカーの靴紐もぶちんと切れ、反射的によろめきました。
「ふふっ」
すぐ耳元で誰かが笑います。
これ以上ここにいたら危ない!
命の危険を直感した私は即座に回れ右して逃げ出しました。
間一髪無事に帰ってこれましたが……逃げ遅れていたらどうなっていたことか、今思い出しても冷や汗をかきます。
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