千手観音の正体
投稿者:くやり (24)
短編
2022/03/19
20:44
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俺は寺の息子です。父と祖父も住職だった為、長男で後継ぎの俺は小さい頃から厳しい修行をしてきました。しかし中学に上がる頃からぐれて、喫煙だの飲酒だのやんちゃをするようになります。
ある夏休みの夜、不良仲間と集まってだべっていると怖い話になりました。
「聞いたか?1丁目のY寺の墓地に千手観音がでるんだって」
「なんだよ千手観音って、マジうけるー」
「これから肝試しいかね?」
「のった!」
お調子者の友人が喋っているのは紛れもなくうちの寺の事でした。
内心まずいと思ったものの、当時の俺は寺の息子である事を周囲に秘密にしており、日和っていると見なされるのも嫌で肝試しを決行しました。
夜10時過ぎ、5・6人で墓地に忍び込みました。周囲は真っ暗闇で虫がうるさく鳴いています。
「いた、千手観音だ!」
先頭の友人が素っ頓狂な声を上げて指さしました。まさかと思って向き直ると、背中から夥しい腕を生やした異形の存在がゆっくり横切っていきます。
本当に観音様がいた!不肖の後継ぎを叱りにきたんだ!
パニックに陥って騒いでいると本堂から親父たちが駆け付け、千手観音を見るなり目を剥きます。
「アンタ、こんな所で何してるんだ!」
俺たちが千手観音と見間違えたのは、他人の墓から引っこ抜いた卒塔婆を背負った男でした。
後でわかった事ですが、その男は卒塔婆コレクターだったのです。
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