納棺師の伯父
投稿者:くやり (24)
短編
2022/03/10
20:53
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私の伯父はこの道三十年のベテラン納棺師です。
数年前、叔父は旧家の老婦人の納棺の儀を任されました。病気で長年寝たきりだった老女は、とても安らかな顔をしていたそうです。
死に装束を着せて湯灌を行っている時、フッと気配を感じて振り返ると、着物姿の小さい女の子が立っていました。
変だな、遺族に子どもはいなかったはず……伯父は戸惑ったものの、優しく声をかけました。
「どうしたんだいお嬢ちゃん」
「ゆきちゃん死んじゃったの?」
老女の名前は由紀子でした。少女は自分の祖母位年の差がある女性を、ちゃん付けの愛称で呼んだのです。
「もうおきないの?あそべない?」
「ああ、そうだね……ゆきちゃんは天国に行ったんだ」
「そっかあ」
女の子は納得したように一人頷き、軽い足音をたて襖をすり抜けていきました。
すると不思議な事が起こりました。
布団に仰向けた老女の体からポワッと白い煙が抜けだし、7歳ほどの女の子の姿に変わって友達を追いかけていったのです。
「待ってよー」
呆然として見送る伯父をよそに、二人の女の子は無邪気に笑って消えていきました。
納棺の儀を終えた伯父がその事を喪主のご長男に報告した所、しみじみ呟いたといいます。
「寝たきりで暇だったんでしょうね。枕元に座敷童が遊びにきてくれるのって、お袋がよく言ってました」
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