リュウグウノツカイの不思議な話

私の趣味は夜釣りです。
もとから海の近くに住んでいるため、明け方近くまで釣り糸をたらしていることも珍しくありません。

去年の夏、港に出向いて釣り糸をたらしている最中に思いがけない光景を目撃しました。
リュウグウノツカイが泳いでいるのです。

深海に生息するリュウグウノツカイが浮上してくることは非常に珍しく、幻想的な姿に見とれて身を乗り出し、ハッと息を呑みました。

海面すれすれを泳ぎ回るリュウグウノツカイの尾を、長い黒髪をたゆたわせた全裸の女が掴んでいるのです。

一瞬だけ絡んだ視線がすぐ外れ、謎の女はリュウグウノツカイとともに海底へ戻っていきました。

一体何だったんだあれは……。

翌日、近くの浜に全裸女性の水死体が打ち上げられました。
新聞記事には死後一週間ほど経過していたと書かれており、さらに困惑します。

どうにも納得できず地元警察の知り合いに相談した所、彼は神妙な面持ちで呟きました。

「お前さんが見たリュウグウノツカイは、海で迷子になった魂をあの世に運んで行ったのかもしれねえなあ」

後日の新聞報道にて、被害者はドライブ中に痴話喧嘩をし、他ならぬ恋人の手で夜の海に突き落とされたと知りました。

リュウグウノツカイは今も、夜の海で命を落とした魂をあの世に運んでいるのでしょうか。