沖縄旅行で行ったある防空壕での話
投稿者:湯豆腐 (1)
外では母が相変わらず心配そうにしていましたが、
母に「だめだ戻ろう」と告げ受付に引き返そうと決めました。
そして受付に向かって歩いている時、60人くらいの高校生の集団が現れました。
一番後ろにいる先生らしき人に話しかけると、修学旅行だそうで、私と母は、図々しくもその高校生たちに便乗させてもらうことにしました。
さっきの入り口に着き、高校生たちがどんどん入っていきます。
私と母も、最後尾からあとを追うように入りました。
高校生たちのワイワイした声が響く防空壕内はさっきの不気味さはかけらもなく、ずんずん奥に進んでいきました。
明かりも、さっきは私一人の心もとない明かりだったけど、今度は違いました。
一人だとあんなにも不安だったのに、集団でいるとこんなにも平気な自分におどろきました。
足元が悪いので下を照らしながら慎重に歩きました。当時の医療器具のようなものがチラリと見えました。
そして、防空壕の終盤に差し掛かった時に、ガイドの男性が号令をかけました。
「ではみなさん、懐中電灯を消してください」
私たちは、懐中電灯を消しました。
すると、真っ暗闇が現れました。
上の方に1箇所だけ洞窟の切れ目があって光が入っているようですが、その部分が光っているだけで空間は照らされておらず、相変わらず何も見えません。
真っ暗闇の中、ガイドの男性の声が響きます。
「これが、当時の様子です。明かりはあれだけです。隣の人の顔も見えない。病気の人もいる。大怪我をしてる人もいる。汚物がある。痛みに苦しむ声がする。気が狂って叫ぶ人がいる。泣いている人もいる。死んでいる人もいる。こんな中、なんとか正気を保って生きて行かなければならなかったのです。」
まさにその現場で聞くその話は凄まじい迫力でした。
「今から黙祷をします」
どれくらい黙祷したかはわかりません。真っ暗闇と静寂にしばらく包まれました。
ただならぬ何かを全員が感じていました。
女子生徒のすすり泣きがそこらじゅうから聞こえてきました。
さっきまでふざけていた男子生徒は皆一様に静まり返っていました。
「…はい、懐中電灯をつけてください」
ガイドの男性の囁くような静かな号令で、みんな懐中電灯をつけました。
泣き崩れてしまった女子生徒もいたようで、周りの子が肩を貸している様子が見えました。
そしてそのまま出口へと向かって行くにつれ、外の明かりが少しずつ差し込んできました。
岩を登ってなんとか外に出ました。ある一角に、千羽鶴などがたくさんお供えしてありました。私と母は手を合わせ、借りていた懐中電灯を返しに受付に戻りました。
「入れましたか?」と受付の人に聞かれました。高校生たちと一緒に入ったことを告げると、
「それは運が良かったですね!入れなくて戻ってくる方は結構多いんですよ」
と言われ、私たちはラッキーだったんだな、と思いました。
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