スマホカメラのズーム機能
投稿者:with (43)
俺が高校生だった頃は、まだスマホは普及し始めたばかりで、高校入学祝に初めて携帯電話を買って貰った。
親はガラケーだったから余計にスマホへの憧れが強くて、大きな画面に映り込む俺の表情は無邪気な笑顔をしていたと思う。
早速部屋にこもってスマホ操作に没頭してたんだが、どうも説明書がないので手当たり次第いじくり回してたら一時間くらい経ってた。
で、覚えたのが写真と動画の撮り方くらいで、ネットの使い方とかよくわからず、使えても文字入力に時間がかかってしまうので、とりあえず高画質な写真を撮る事に感動を覚えてしまいハマってしまった。
最初は室内とか小物を撮って楽しんでたんだけど、鳥の鳴き声が聞こえてきたんで窓から身を乗り出して野鳥を撮影し始めた。
タップしたらピントが合うことも覚えたから後は木に止まっている生き物がいないか画面越しに山の方をしらみ潰しに探していた。
「おっ、何かおるわ」
木々の葉に囲まれてぼんやりと動物が動いた残像をとらえたからズーム機能を使って拡大していく。
「…お?」
なんだあれは?
俺はどうにかして拡大したソレにピントが合わないものかとタップを繰り返し、明暗の調整も試みた。
すると、次第にぼんやりしたシルエットは輪郭がハッキリとしていき、人の上半身に似た外形が確認できた。
木の上に人?枝の上にいるのか?
なんて疑問の声が俺の胸中だった。
暫く緑色の中に潜むその不自然な配色のソレを眺めていると、不意に頭部分がガクッと斜めに曲がったかと思えばそのまま振り向くように回っていく。
例えるなら秒針が刻むリズムでガクッガクッと一拍を置いて頭部が回り、黒っぽい配色の奥から肌の色が見えてきた。
俺は、やっぱりあれ人なんだな、と思った。
そんな呑気に構えていたら急にガクンて首が完全に後ろに回り、両目が黒く抉れた顔を見せた。
「うひゃああああ!」
突然恐ろしい顔を見せられた俺はスマホを手から滑り落としながら盛大に転けた。
尻餅をついたと同時に新品のスマホを落としてしまった事に気付いて忙しなくスマホを拾い上げた。
「やべ、あ、壊れてないよな」
落とした拍子に電源ボタンを押したのか真っ暗になっていたが、普通に起動できたので安心した。
で、カメラが開いた状態だったからもう一度山の中を恐る恐る確認してみたんだが、そこにはもう何もいなかった。
たまたま木登りしていた人が居て、それがピンボケで目が抉れたように錯覚したのかもしれないと思った。
画面下に新規撮影した画像が小さく表示されていることに気付いて画像を開いてみた。
「うわああっ…!」
すると、ひどく粗い画質だが葉の中からこっちを向いている目が抉れた人が保存されていたから、俺はまた悲鳴を上げてスマホを手から落とした。
自分でも何回同じことするんだと頭を掻きながら焦ってスマホを拾い直し、画面をつける。
しかし、保存された画像の中に目が抉れた人の姿は写ってなかった。
スマホにしか写らない幽霊みたいなの聞いたことあります