奇々怪々 お知らせ

不思議体験

黒豆さんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

長野県の山頂で見たもの
長編 2026/06/07 08:00 191view

二十五年ほど前の夏、私は友人と一緒に、長野県のある観光地へリゾートバイト(住み込みのアルバイト)に行きました。

そこは山の上にある大きな二階建ての食堂で、裏手には、離れのような形で従業員用の寮が建っていました。

私と友人はホール係、先に働きに来ていた男の子は厨房係で、年齢が近かったこともありすぐに打ち解け、三人で行動することが多くなりました。

建物の目の前の広い駐車場を抜けると、なだらかな坂道があり、そこを五分ほど登ると山頂に出ました。

とはいえ、そこは木もほとんど生えておらず、広場か空き地のような場所になっていて、ベンチ代わりになる大きな岩がいくつか点々と置かれていました。

そして周囲の山々をぐるりと見渡すことができ、昼間は観光客のハイキングコースにもなっている場所でした。

私たちは雨や霧の日を除いて、仕事終わりや、酔っ払った深夜にもよくそこへ行き、岩に腰かけて深呼吸をしたり、くだらない話をして笑ったりしていました。

そんなある日、仕事が終わった夕方五時半ごろのことです。

いつものように三人で山頂へ行きました。

私たち以外には誰もおらず、がらんとした山頂で岩に腰かけ、その日来た客の話や将来のことなどを話していました。

十分ほど経ったころ、友人が「そろそろ戻ろう」と立ち上がりました。

ですが私は、なぜかもう少しそこにいたい気分だったので、

「先に帰ってて。もう少しいる」

と言うと、二人は

「なに、たそがれるのかい(笑)?」

「じゃあご飯用意しておくよ。気をつけてね」

などと言って、先に戻っていきました。

二人の話し声が遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなると、一気に静かになりました。

虫の羽音や草の揺れる音だけが小さく聞こえ、山頂特有の、耳が詰まるような感覚でした。

そこで目を閉じて耳抜きをしながら、ゆっくりと目を開けると、思わず息をのむような夕焼けが広がっていました。

全体的に蛍光がかったピンク色の空を、濃いオレンジと紫色の雲が迷彩柄のように埋め、その隙間から差し込む金色の光が、スポットライトのように山々を照らしていました。

それはもう、きれいというよりどこか異様な光景で、私は吸い込まれるように見入っていました。ですがふとお尻の痛みが気になって、立ち上がった、その瞬間でした。

まるでブレーカーが落ちたように、突然あたりが真っ暗になったのです。

空にはもう、さっきまでの夕焼けはなく、代わりに妙な湿気だけがまとわりつくように感じられました。

あまりの唐突さに驚きながらも、

(山ではこういうこともあるのかな)

(それにしても、ものすごい夕焼けだったな)

などと考えながら、私はそろそろ戻ることにしました。

坂道を下っていくと、駐車場の向こうにある食堂の明かりが、妙に際立って見えました。

1/4
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。