スーパーに勤務している岡本さんが体験した話だ。
岡本さんが、バックヤードのスウィングドアを出て、店内にある事務所に向かい台車を押しながら早足で歩いていた。
すると正面から先輩の安藤さんが歩いてくるのが見えた。
ちょっと急いでいたこともあって、会釈もせず、そのまま素通りしてしまった。
事務所に着いてドアを開けると、
さっき廊下で確かにすれ違ったはずの安藤さんが、普通にデスクで作業をしている。
「……え、安藤さん! さっき廊下歩いてませんでした?!」
慌てて声をかけると、安藤さんは不思議そうな顔で、
「ずっとここにいたけど?」
「……あ、そ、そうですか……見間違いだったんですね……」
顔をちゃんと見ていなかったから、誰かと間違えたんだろうと思いながら、
とりあえず自分の持ち場に戻って業務を再開した。
その後、先輩の工藤さんに興奮気味に
「さっきめっちゃ怖いことがあって……」と話し終わった瞬間――
工藤さんが手に持っていたバーコードリーダーのストラップが、
「パキッ」という乾いた音を立てて突然千切れた。
同時に、端末の画面がカチッと固まって、完全にフリーズした。
「……あ」
二人とも一瞬言葉を失って、
そのまま数秒、沈黙が流れた。
『……この話、しない方がいいのかな……』
岡本さんは、そう思ったそうだ。
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