これは私が2~3年前住んでいたマンションで体験した怖い話をお話します。
夜の帳が下りた大阪。賑やかだった道頓堀の喧騒も、今は遠い波の音のように聞こえる。一人暮らしのマンション、その静けさが今日はやけに重く感じられた。
リビングの隅に置かれた古い木製の棚。それは祖母の形見で、子供の頃から見慣れたものだった。しかし、今夜はなぜか、その棚の奥に黒い影が見えた気がした。気のせいだろうと目を凝らすが、暗闇に溶け込むように、それはただ「いる」。
心臓の音が早くなるのを感じながら、電気のスイッチに手を伸ばした。パチッという音と共に部屋が明るくなる。しかし、棚の奥には何もなかった。
「疲れているのかな」
そう呟いて、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出す。喉を潤しながら、もう一度棚の方を見た。やはり、何もいない。
安堵のため息をつき、テレビのリモコンに手を伸ばしたその時だった。背後から、かすかな衣擦れの音が聞こえた。振り返ると、廊下の先に人影のようなものが立っている。
「誰…?」
声をかけるが、返事はない。ただ、そこに「いる」。ゆっくりと近づいてくる影。街灯の光を浴びて、それは次第に輪郭を現し始める。それは、見慣れない着物を着た、顔の見えない女性だった。
恐怖で足がすくみ、声も出ない。女性は無言のまま、じりじりと距離を詰めてくる。その手がゆっくりと上がり、こちらへ伸びてくる。
逃げなければ。そう思った瞬間、玄関のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
ビクッとして女性の方を見ると、影は揺らぎ、まるで水面に落ちた墨のようにじわりと薄れていく。そして、チャイムの音が再び鳴った時、完全に消え去っていた。
ドアを開けると、宅配業者が困った顔で立っていた。「あの、お届け物ですけど…」
サインをして荷物を受け取り、ドアを閉める。冷や汗が背中を伝っていた。一体、あれは何だったのだろうか。
リビングに戻り、棚の方を恐る恐る見る。いつもと変わらない、ただの古い木製の棚。しかし、さっきまでそこに確かに「いた」影の感触が、まだ肌に残っているようだった。
その夜、私は眠ることができなかった。棚の奥の暗闇が、ずっと気になって仕方なかった。もしかしたら、今もそこに「いる」のかもしれない。そう思うと、背筋がゾッとした。
次の日、祖母の形見の棚を丁寧に拭いた。何十年も前のものだから、何か謂れがあるのかもしれない。ふと、棚の隅に小さな染みのようなものを見つけた。指で擦ってみるが、落ちない。よく見ると、それは小さな文字のようだった。
目を凝らして読んでみると、そこにはかすれた文字でこう書かれていた。
「…ここに、いる」
背筋に氷のようなものが走り抜けた。昨夜の影、そして今朝見つけた文字。全てが繋がった気がした。この棚には、何かが「いる」。そして、それは今も、私のすぐそばにいるのかもしれない。
夜が来るのが、恐ろしかった























いやーひかえめにいっておしっこもれそうです。
おしっこいります?