「修学旅行に行ったとき、夜寝ていたら初めて金縛りになったんです。そしたら部屋に飾ってある絵画の男と目があって‥」
たけるさんが中学生の頃に、修学旅行先の旅館で体験した話である。
老舗という言葉がしっくりとくる京都の旅館に宿泊することになった。畳の部屋、机の上に乗ったお茶菓子。窓際には二脚の椅子が並んでいる。オーソドックスな作りではあるが、友達同士で泊まれることに胸を高鳴らせていた。
しかし、部屋に入った時に気になることがひとつだけあった。
部屋の真ん中に木で作られた大きな柱があり、そこに日本人男性が描かれている絵画が飾られていたのだ。
「なんでこんなところに?」
この絵はこの部屋だけに飾られているのだろうか?
友達に会いに行く事を口実に別部屋を覗きに行くと、飾られている絵の違いはあれ、どの部屋も同じような作りをしていた。自分の部屋だけではないことに安堵し、修学旅行の初日を楽しんだ。
何事もなく無事に旅館に戻る。
一日の疲れもあってかすぐに眠りについた。
夜中に、ふと目が覚める。
トイレに行きたいわけでもなく、起きてしまうようなことがあったわけでもない。しかし、目がぱっちりと覚めてしまったのだ。
ぼんやりと目を開けているとだんだん暗さに慣れてくる。目の前には見慣れない木目の天井が広がり、友達の寝息が聞こえきた。目線を下にずらすと足元にはあの大きな柱と絵画が見える。暗くなった部屋で見る絵画はより一層不気味だ。
明るいうちに見る分にはなんとも思わなかったが、こちら側を見ている絵画の男と目が合うのはなんとも不気味だ。
その視線は、絵というよりもまるで本物の人間に見られているかのよう。怖くなり思わずその場から逃げ出しそうになったが、体が動かない。
初めての金縛りになったのだ。強く目を瞑り、時間が過ぎていくことを願うことしかできなかった。
そのまま眠ってしまったのか、気がつくと朝を迎えていた。
驚かせるつもりはなかったが、今日明日この部屋で過ごさなければならない恐怖を誰かと共有したく、同部屋の友達に昨日の夜のことを話した。皆んな、信じているのか信じていないのか曖昧な反応をする中、柱の裏側で寝ていた友達から
「実は俺も金縛りにあって‥」
と話された。
自分だけではなかった。それだけでも心なしか安心感があった。外出時、なんとなくもう一度絵を見てみる。
絵の男は、横を向いていた。
目があったのは両目。
ということはつまり、絵の男は正面を向いていなければおかしい。
『昨日のと‥違う』
一体、誰と目があったのか。
考え出すとまた今夜、この部屋で眠ることはとてもじゃないができなかったので、部屋の変更を申し出た。
だが、その回虚しく叶わなかった。
約20年前、京都の旅館でおきたお話。


























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