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不思議体験

kanaさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

マリーさんと過ごした日々
長編 2025/02/11 00:08 4,873view
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【別れと出会いの季節の中で】

 経営していた会社が大手企業に買収され、多額の退職金と共に体よく会社を追い出されてしまったのを境に、ボクはもう世捨て人にでもなろうと決心して自分の趣味に生きることにした。
 子供もいなかったし、妻も数年前に死別している。もうボクを止める人は誰もいない。
自由と言うか、孤独と言うか・・・。

 若いころからマリンスポーツが好きということもあって、湘南の海にほど近い場所に中古の一軒家を購入した。小さな家だが、庭もあり、外見は白い壁で洋風な雰囲気もあり、まだまだ美しさを保っていた。ここなら遊ぶのにもノンビリするのにも、たまに友達を集めてパーティーするのにもちょうど良い物件である。しかも格安。これには友人のツテもあった。
 
 この家には長年お婆さんが一人で住んでいたようなのだが、病気で亡くなったらしく、彼女の息子夫婦がこの家を相続したものの、遠方に住んでいて相続税も払えないということで、さっそく手放すことになったらしい。その時ちょうど物件を探していたボクの所に、友人の不動産業者の社長から直接この家の売り込み電話を頂いたというわけだ。本当ならもっと高い相場で売れるはずの物件だろうに・・・彼には感謝している。
 
 家や庭は手入れが行き届いており、以前住んでいた方が几帳面だったことをうかがわせた。修理も最小限で済み、快適な新生活を送れそうだ。

 引っ越しも終わって2週間くらいたった頃だろうか。

やっと荷ほどきも完了して部屋も片付き、落ち着いてきたその晩のことである。
ベッドで横になっていると廊下の方から人が歩くような気配が感じられた。
一瞬ドロボウか?とも思ったが、一応セキュリティにも入っているし、誰かが侵入したなんてことがあればすぐに警備会社から連絡があるはずだ。

 ネズミかネコでも侵入したか? そう思ってしばらく聞き耳を立てていたが、音はそれきりしなくなり、自分もいつの間にか眠っていた。
 翌朝調べてみたが、それらしき兆候もなければ戸締りの異変もなかった。いわゆる家鳴りというものだろうか。だが、それが間違いだったことがやがて判明することになる。

 その日の晩、眠っていると枕元に女性が立っているのに気が付いた。
自分はなぜか驚きもせず、その彼女をじっと見つめている。彼女もこちらの顔を覗き込んでいる。(なんだろう・・・ご近所の方が何か用事があって入って来たんだろうか・・・)
寝ぼけた頭でおかしなことを考えていた。そんなはずはないのだが。

 すると女性が小さな声でしゃべり始めた。
「・・・ここはわたしのいえよ・・・あなたはだれ?」

 ハッとして目を覚ました。
「・・・夢?・・・だったのだろうか」
 そこからは眠れなかったので起きてコーヒーを沸かして、ゆっくりと今の夢を思い返してみた。長い髪を後ろでまとめ、質素で目立たない、それでいて清潔感のある服装をした細おもての女性だった。その彼女が「ここは私の家」と宣言していたという事は、彼女はこの家の元の持ち主であるお婆さんのはずなのだが・・・年齢はせいぜい30代くらにしか見えなかった。別人だろうかとも思ったが、ふとある出来事を思い返した・・・。

 自分の母親が齢八十で亡くなった時、やはり夢枕に立ったことがある。その時の母は自分よりも若い30代くらいの見た目になっていて、長年苦しんだ病気もすっかり消え失せ、元気に笑って動き回っているのである。ボクと、若く元気になった母は抱き合って笑いあい、そのまま転げまわるようにして大喜びした。(よかった!本当によかったな、母ちゃん!!)
・・・夢から覚めた時、ボクは泣いていた。

 その夢を見た後からは、母親の死も前向きに受け止めることができるようになった。
人はもしかすると、死んだあとは自分が一番元気だったころの年齢の姿を取り戻せるのではないか?そんな妄想が頭に浮かんだ。
 それならば、かつての住人のお婆さんが若い姿で現れた理由も納得できる。
・・・が、これはあくまでも単なる思い付きであり、確証がある話ではない。
いろいろ考えているうちにだいぶ落ち着いてきて、これはただの夢なんだと、自分に言い聞かせることができるようになった。

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コメント(9)
  • kanaです。
    この作品は2022年の春頃に書いたマリーさんシリーズの4編をまとめて、加筆修正してまとめた完全版として書き上げたものです。長編18ページとなりましたが、面白く読めると思いますので、ぜひお読みください。後半に出てくるニンニンこと、除霊師・忍足 忍(オシダリ シノブ)は、朽屋瑠子シリーズの「赤騎士事件」にも朽屋の同僚として登場する除霊師です。スピンオフ参加です。お楽しみください。

    2025/02/11/01:00
  • 読んでいる途中で感情移入をしたようで、涙が止まりませんでした。

    2025/02/11/01:05
  • 良い話や

    2025/02/11/10:20
  • すごい感動しました👏
    最高です!

    2025/02/11/12:45
  • ※勲章授与のシーンで脱字がありましたので修正しました。

    2025/02/11/13:47
  • kanaです。
    劇中歌として『ホームにて』と『時はながれて』をマリーさんが歌っていますので、
    よろしければそれを聞きながら読んでいただくと、臨場感も湧くと思います。
    ちなみに、検索をかけると『時はながれて』と同名のタイトルの楽曲を複数の方が歌われているようで、もしかしたら違う曲を聴く可能性もありますが(笑)、マリーさんが歌っているのはあくまでも「某有名女性フォークシンガー」が歌われている曲です。失恋の歌が多い方ですよね。
    では、お楽しみください。

    2025/02/11/14:09
  • ↑↑感動したというコメントをいただいて大変ありがたいです。あと、怖くないのにこわいねボタン押してくださる方、ありがとうございます。
    みなさんはどのシーンでほろりと来ましたか?
    怖いの苦手な方も、ぜひお楽しみください。

    2025/02/11/17:12
  • さすがです。

    2025/02/11/18:06
  • 本を買ってみたい

    2025/02/12/10:25

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