ご愛読ありがとうございました。
投稿者:Mine (24)
Yさんは一時期とあるブログの熱心な読者であったという。
スマートフォンが世に出回る前の時代、仕事が終わり帰宅して家事をあらかた片付けた後の空いた時間にノートPCでブログが更新されていないかチェックするのが日課だった。
ブログ主はエリカという女子大生で髪型を変えたとか誕生日だったとか、そんな他愛ない日常の一コマを切り取っては若い女性特有の感性溢れる文章を用いて日記形式で記録し投稿していた。
星の数ほどある個人ブログの中で決して特別な光る何かがあるわけでは無かった。
Yさんはお気に入りのサイトのリンクを辿っていく内に偶然そのブログを見つけたのだ。
それまでブログという物に興味はなかったのだが、たまたまたどり着いたそのエリカのブログサイトのトップにあったプロフィール欄を目にしたのが始まりだった。
エリカは某中高一貫女子校を卒業後、現在は誰もが知る有名私立大学へ入学し青春を謳歌していた。海外留学経験もあり、家柄も申し分無さそうだった。
顔写真も載せてあり、10人中7、8人が美人と評するような、そんな容貌。
将来は国際的に活躍できる仕事がしたい、とある。
かたやYさんはといえば平凡なサラリーマンの家庭で育ち田舎の公立校を卒業後、短大へ進学するも家庭の事情で中退、それからアルバイトを転々としながらなんとか地方で正社員になるも安月給で朝から晩まで働き、終われば誰も待っていない安アパートに帰る毎日。男性との交際経験は過去に一度だけあったが3ヶ月もしないうちに向こうから一方的に別れを告げられた。
Yさんは自分とは180度違うエリカのプロフィールを見て暗い嫉妬心に火が着いたという。
自分とそんなに年も違わないのにここまで差があるなんて。彼女が都会でキラキラした毎日を送っている間、自分は古びたオフィスでひたすらデスクに向かっている。
そんなに恵まれているなら、少しくらい意地悪しても許されるよね。
エリカの投稿に対しYさんは言葉の端に少し棘のあるコメントを残すようになった。
エリカはYさんのそんな投稿には何も反応を示さず、相変わらず何かイベントがある度に華やかな写真や文章を投稿し続けていた。
それが更にYさんの癪に触ることになる。
始めは軽い嫌みのようなコメントだったYさんの文章も日を追うごとにどんどん過激になり、立派な誹謗中傷になるまでにはそう時間はかからなかった。
“今日は友達を家に招いてパーティーをしました!最高の友人に囲まれて宝石のような時間でした”
とのエリカの投稿に対し
〈こんな自己顕示欲の塊みたいな娘をもってご両親がお気の毒です。あなた絶対周りから嫌われてますよ〉
とコメントを残し、
“今日はクリームパスタを作りました!けど失敗して何かパサパサしてる・・・orz 次は頑張るぞ!”
との投稿には
〈食べ物を粗末にするとか本当に人間のクズだなお前。頼むからさっさと氏ねよ〉
とコメント欄に書き込む。
時には一線を越えるような、更に悪辣な内容の書き込みもしていたらしい。
固定IPアドレスでは無かったし、向こうもアクセス解析まではしてないだろうと踏んでいたので複数人を装い文面も巧妙に使い分けていたそう。
そうしてる内にブログにある変化が起きた。
相変わらずYさんの中傷は黙殺されていたが更新頻度がそれまで2、3日に一回だったのが5日に一回になり、最終的に一週間に一度更新されるかどうかになった。
それでもYさんは手を緩めること無く、ブログが更新される度に粗を探してはエリカを攻撃し続けていた。
それをする権利や正当性が可哀想な自分には充分あるし、ひたすら無視をするなんて馬鹿にしてるに違いない。
もはやエリカのブログはYさんにとって日頃の憂さ晴らしの物言わぬサンドバッグでしかなかった。
毎日が充実していた。
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